第576話
天翔と合流した後、僕たちは射的の露店へとやってきた。まだ回っていないものの中で、やりたいという意見が出た最後の場所だ。
今はちょうど人がいないけれど、銃の数が限られているから同時に出来るのは4人まで。
それならばと僕は身を引くとして、残ったのは5人。やっぱりまだ一人多い。
それがわかった瞬間、女性陣の視線が一斉に天翔へと集まった。それはそうだ、この中でいわゆるハブられの対象になるなら彼が最も適任だろうから。
しかし、天翔の言い分としては『まだ何も遊べていないから』との事で、既に手に取っていた銃を抱えるようにしながら首を横に降って抵抗する。
みんなもそれで納得したらしく、渋々残りの3枠を4人の中から決めることにした。
「東條さんはやめておくべきかと」
「どうしてよ」
「射的は長身が有利になるゲームですよ。この場に引きずり出すのは、私の良心が痛みます」
「そう言いながら、負けそうな相手を排除するつもりね。ふん、これはもう勝負あったんじゃない?」
「そこまで言うなら勝負して差し上げますよ。ボコボコのメッタメタのギッタンギッタンにして後悔させてあげますから」
「望むところだわ」
紅葉と麗華が張り合っているその影では、イヴとノエルがどうぞどうぞ状態で譲り合いをしている。
喧嘩になっちゃうのもなんだけど、優しさのぶつかり合いも考えものだね。
結局、ノエルが強引に銃を渡したことで、イヴが参加することになったみたいだけど。
「じゃあ、天翔くん。ビシバシ指導するからね」
「え、ノエルさんが?」
「こう見えて私、射的の知識だけはあるんだから。景品はとったことないけど」
「すごく頼りない……」
「文句言ってないで弾込める! 私がついたからには、一番いいものを取らないと許さないからね!」
「す、スパルタノエルさんも素敵だ……」
そんなこんなで始まった4人のバトル。弾はそれぞれ5発ずつで、落とした景品の点数の合計で競うことになっている。
ちなみに、点数の決め方は誰にも肩入れしない僕が自由にしていいということで、軽いお菓子の箱が1点、大きめのお菓子とおもちゃが2点、ゲームカセットと重いものが3点、絶対に落とせなそうなものが大逆転の狙える10点とした。
「左から順番に撃ちましょう」
「ってことは最初は私じゃない」
「……」コク
「ちっちゃい人、頑張れ」
「誰がちっちゃい人よ」
余計なことを言った天翔には、「紅葉はアイドルでも構わず顔を殴るよ」と忠告しておきつつ、不満そうなまま銃口を前に向ける紅葉を見守る。
やはり彼女に射的は難易度が高かったようで、景品棚の2段目以上を狙うなら銃を上に向けなくてはならない。
かなり不利ではあるけれど、実力で勝負しなければ意味がないから、ここは助けたい気持ちをぐっと堪えてただ視線でエールを送った。
そのおかげかもしれない。彼女の銃から放たれた弾は真っ直ぐに飛ぶと、ラムネ菓子の箱の角に当たって箱が後ろへ落下。距離があるにも関わらず、見事な景品獲得だ。
「ふん、どうよ!」
「東條さん、こちら1点ですが?」
「……?」
「これは簡単に逆転されてしまうよ」
「べ、別にいいじゃない。嬉しいものは嬉しいの!」
ライバルたちからクスクスと笑われた紅葉は、ぷいっと顔を背けて次の弾を込め始める。
その間に順番的に次の麗華が銃口を天に向けて掲げると、それをゆっくりと下ろしてきてからいい高さでピタリと止めた。そして。
「―――――――よし、落ちました」
あっさりと2点の景品を獲得。紅葉に向かってドヤ顔しつつ、「これ、差し上げますよ」なんて言いながら獲得した子供用の水鉄砲を手渡す。
それが紅葉の逆鱗に触れたらしい。彼女は握りしめた拳を麗華のみぞおち目掛けて突き出した。しかし、あっさりと片手で受け止められてしまう。
そんなバチバチの空気を放つ2人が、そのすぐそばで3点のペンギンのぬいぐるみを獲得し、真顔の胸張りを見せつけられることになったことは言うまでもない。
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