第575話
瑛斗たちは初詣に伴って、神社の敷地内に出ている露店を回ってみることにした。
さすがにここでメンチカツを売っているお店は無さそうなので、イヴには焼いたタコ足で我慢してもらう。
なかなかに美味しそうなのでひとつ分けてくれないかと交渉しかけた時には、もう最後の一本が口に入るスレスレだったよ。
さすがにそれを取る気にはなれず、「美味しい?」「……」コクのやり取りでタコのことは忘れることにした。
「随分とたくさん出てるわね」
「まるでお祭りですね」
「これはテンション上がっちゃうよ」
「……♪」
そんな会話をしてから数十分後、僕はノエルを連れて露店から少し離れた場所へと避難することになる。
ヨーヨーすくいをやって取り逃したヨーヨー。
スーパーボールすくいをやってボウルから水槽に戻したボール。
番号を確認した後、店主に渡したくじ。
露店を回る度、ノエルの存在を聞き付けたファンたちによって、それらの品々が激しい奪い合いの種になってしまったのだ。
当の本人がその事に気付かず、無邪気に遊んでいるところがまた言い出しづらい。
なので、とりあえず身を隠してほとぼりが冷めるのを待つため、ここで雑談でもしておこうということになった。
ちなみに、くじ引きの店主もノエルのファンだったようで、使用済みのくじを額縁に飾ってファンの皆様に見せびらかしてたよ。
触れるもの全てが起爆剤になるなんて、アイドルも楽な仕事じゃないね。
「それにしても、もう新年なのね。ついこの前会ったばかりな気がするのに」
「僕もだよ。人生で一番早い一年だった」
「きっと私のおかげですね」
「違うよ、私のおかげだもん!」
「みんなのおかげだよ。誰か一人でもいなかったら、きっとこんな気持ちにはなれてなかった」
「……?」
「うん。もちろんイヴもだよ」
「……♪」
きっとイヴとノエルのどちらかと関わりを持たなかったなら、僕はきっと2人ともとこうして初詣に来るような仲にはならなかったと思う。
紅葉と麗華も……特に麗華の方は、もしかしたらまだレイコを演じていたかもしれないよね。紅葉とぶつかり合ったからこそ、2人とも少しずつ丸くなったんだから。
そして何より僕が一番変わったと思う。人に傷つけられて殻に閉じこもっていたところを、彼女たちが引っ張り出してくれた。
みんなは僕に助けられたと言ってくれるけれど、その僕自身もみんなに助けられてここまで来たのだ。感謝してもしきれない。
それでも気持ちの端っこくらいは伝えたいから、僕はまだまとまらない気持ちを言葉にしようとした。しかし。
「みんな、ありが―――――――――」
「やあやあ、ノエルさん。こんなところで会うなんて奇遇だね」
「あ、
「今日も綺麗だね。ところで、瑛斗とは一緒じゃないのかい?」
「瑛斗くんなら、今
完全に乱入者である
まあ、彼がノエルに向ける気持ちは本物だし、見つけて駆け寄ってきたのだと思えば犬みたいで可愛らしいじゃないか。
自分にそう言い聞かせて、本当に気付かなかったのかは少し怪しい天翔が差し出してくれた手を掴んで立ち上がった。
「久しぶりだね、天翔」
「ボクは忙しいんだ。でも、神様に挨拶しないのは不敬だろう? 何とか今日を開けてもらったんだ」
「それは良かった。もうかなり楽しんだ後だけど、少しだけでも一緒に回る?」
「もちろ……いや、瑛斗がどうしてもっていうのならボクは一緒でも構わないけど」
「どうしても」
「……君は良い奴なのか、何も考えてないだけなのか分からないね」
「紅葉よりは考えてるよ」
「……ふぇ? 私のこと呼んだ?」
植木の影から顔を覗かせる猫とにらめっこしていた紅葉の拍子抜けしたような返事に、僕たちが思わず笑みを零したことは言うまでもない。
「それで一緒に回るの?」
「断る理由がなくなってしまったからね」
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