第566話
生放送が終わった後は、部屋に移動して寝る準備……をするつもりだったけれど、
我が家にはコタツなんてないから、入る機会は滅多にない。おまけにこの部屋にいるのは自分だけ、この温もりを独占するのは初めてだよ。
そんな感じでワクワクしながら、ようやく温まってきたコタツを満喫していると、コンコンとノックをして他のみんながやってきた。
どうやら瑠海さんが呼んできたらしい。独占禁止法が発令された気分だよ。まあ、足を入れた瞬間から緩んだ表情を見せられたら、そんな意地悪なこと言えないけどね。
「ふふ、温かいですね」
「おこたなんだから当たり前じゃない」
「……♪」
三辺それぞれに一人ずつ、どこを見ても幸せそうな顔が見れる。僕はこの特等席が一番ポカポカしている自信があった。
瑠海さんが持ってきてくれたみかんをつまみつつ、他には何もしないで時間の過ぎるままにのんびりとくつろぐ。
こうしていると、比較的忙しくない自分でも、普段から色々な出来事によって無意識に何かのために動いていることがわかるよ。
たまにはこう言う無駄も必要なのかもしれない。自分がいつもどういう状況にいるのかを正しく理解する為にもね。
「……ん?」
頭の中で偉そうなことを考えながらウトウトしていると、ふとコタツの中でモゾモゾと動く気配を感じた。
コタツの中にいる存在と言えば、丸くなっている猫くらいしか思い浮かばないけど。
一体何なのかと
どうやら向こうは気が付いていないらしい。足に触れている部分から、落ち着いた呼吸のリズムが伝わってきている。
いくら温かいとは言え、ここで寝かせたままという訳にはいかないけれど、起こそうとしたらきっと紅葉に気付かれる。
そうなれば、きっと彼女は恥ずかしさのあまり、弁慶の泣き所へグーパンチをぶつけまくるだろう。
最悪、小指の一本くらいは曲がっては行けない方向に曲がるかもしれない。それだけは御免だ。
「あれ、どこから猫ちゃんが紛れ込んだのかな」
僕はあくまで紅葉がコタツの中で丸まっていることに気が付いていないことにしなくてはいけない。
その手段として選んだのが、絶対にありえないとわかっていながら彼女を猫だと思い込んでいる演技をするというもの。
「よしよーし、可愛い猫ちゃんなんだろうなぁ」
「……にゃー」
「いい子だね」
「にゃぁ♪」
頭を撫でてあげると、紅葉は見られていないのをいいことに完全に猫になりきり始めた。
これはしめたとばかりにこちらもわしゃわしゃと撫でたり、首をくすぐってあげたりと調子に乗り始めてしまう。
きっとそのせいなのだろう。手のひらが何かむにっとしたものに触れたような気がした直後、鳴かなくなったボサボサ頭の紅葉にゃんがコタツの向こう側から出てきた。
「紅葉、起きたの?」
「……ええ」
「今猫がいたんだけど、どこ行ったか知らない?」
「寝てたから分からないわ」
ほんのりと赤い顔をした彼女はそうとだけ言って立ち上がると、「おやすみ」と告げて部屋を出ていく。
それからしばらく、何か良くないところに触れちゃったのかと悩んでいた僕の元へ、もう一匹新たな猫がやってきたことは言うまでもない。
「にゃー♪」
「麗華、何やってるの」
「私にだけあっさりした対応ですね?!」
「そんなことより、猫の触っちゃいけない箇所ってどこか知ってる?」
「耳やしっぽ、後はお腹じゃないんですか?」
「どれも触ってないと思うんだけどなぁ……」
「そんなことより、私も撫でてください!」
「仕方ないなぁ」
麗華にゃんを可愛がり初めてから数分後、何食わぬ顔でやってきたつもりの紅葉を、今度は人としてたくさん撫でてあげたことはまた別のお話。
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