第565話
あれからしばらくして、シアタールームという部屋に集まった僕たちは、テレビの映像を映し出してボーッと眺めていた。
画面の中ではちょうど今、年越し番組の副MCを務めている
「ノエル、頑張ってるね」
「……」コク
「随分とキラキラしてるわ」
「いつも見ているノエルさんと同一人物だとは、今でも少し驚きです」
二人の言う通り、確かに普段のノエルと画面の向こうのノエルは何かが違う。
顔も、声も、天使のスマイルも、何もかもが同じはずなのに、別人のように思わせる見えない変化があるのだ。
きっと、こういうのをオーラだとかカリスマ性って言うんだろうね。そう思うと、少し遠くの存在になっちゃう気がして寂しくもなるけれど。
『皆さん、あと3分ですよ! カウントダウンしちゃいますか?』
『いやいや、さすがに早過ぎるだろ』
『180数えるのは、テレビとしてどうなのかな』
生放送ということも忘れてはしゃぐ
それによって起こったスタジオ内の笑いが収まる頃には、もう残り時間は1分を切っていた。
セットに取り付けられたカウントダウン用の時計に注目が集まり、30秒前を知らせる機械音声がこのシアタールームにも響き渡る。
『……あ、そう言えば年越しの時にジャンプする人たちいますよね』
『空中に浮いてれば、少しでも長く去年に留まっていられる的な謎理論だな』
『え、このタイミングで話すこと?!』
『私たちもやろうってことじゃないかな?』
年越し15秒前、そんなことを話し始めた4人を見て番組を支える人達は焦っただろう。
曖昧な感じで新年を迎えるのもまずいし、かと言って下っ端の人だけで決められることでもないから。
おまけに猶予は10秒、カンペで伝えるのに5秒はかかるだろう。余程の判断力がなければ下せない決断だ。
しかし、その人物だけは最も危惧すべき状況を回避するために思考したんだと思う。
ノエルは画面には映っていない誰かと目で会話すると、メンバー3人の肩を優しく叩いて頷き合い、0時0分0秒を迎える直前に――――――――。
『『『『せーのっ!』』』』
―――――――――――揃って高く跳んだ。
その様子を見ていた僕たちもきっと、心の中では浮かび上がっていただろう。映画館では上映中に立ち上がってはならないという重圧が、フカフカの椅子に繋ぎ止めてくれたけれど。
おそらく、ノエルと目が合った相手は
あわあわしたまま年越しを迎えてしまえば、それこそ
けれど、紫波崎さんだって普通の人間だ。未来予知が出来るわけでもなければ、手の届かない場所にいる誰かを救うことだって出来ない。
『……は?』
『……へ?』
『……ほ?』
だから、着地するはずの場所で足が着かず、そのままセットの下へと落ちていくノエル、翠、橙火の姿を見て、僕と同じように驚いただろう。
そう思ってついつい前のめりになっていたものの、駆けつけた紫波崎さんの手には看板のようなものが。
彼がそれを唯一着地できた櫻田 心春に手渡すと、彼女は近付いてきたカメラさんと一緒にステージに空いた穴を覗き込む。そして。
『年越し生放送ドッキリ、大成功です!』
穴の下でスポンジに埋もれたままキョトンとする3人に、テレビの恐ろしさを突きつけた。
今や未成年アイドルでもお構い無しにドッキリを仕掛けるとは、よもやよもや……じゃなくて、気の抜けない世の中になったものである。
「ドッキリ……?」
「生放送でか?」
「ていうか、お尻ハマって動けないんだけど!」
その後、SNSのハッシュタグランキングの上位8位までを、しばらく
ちなみに、1位は『ノエル キョトン顔』だったよ。さすがは僕の最推し、家のテレビで録画し忘れたことが悔やまれるね。
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