第561話
こちらにも見せてくれるのかと思っていたけれど、そのままカンペを置いて先程と同様に目隠しエリアへと移動してくる。
そう言えば、先程も罰を受ける側の二人には見せていなかった気がするなぁ……なんて思っていた僕は、数ある道具の中からイヴが選んだものを見て固まった。
「それ、使うの?」
「……」コクコク
僕はイヴほどでは無いけれど、元々表情に感情が出づらい人間だし、くすぐりや足つぼであればノーリアクションを貫けると思う。
でも、ビリビリは例外だ。あれだけはどうしても慣れない。バチッとするのも継続的に電気が送られてくるのも、真顔では耐えられないのだ。
「……」フリフリ
「……?」
「……」フリフリ
「……♪」
さすがに拒絶を言葉には出来ないので、首を振って自分にはしないでとアピールするものの、それが何を意味するのかを分かっていない様子。
ついにはダメよダメよも好きのうちと解釈したのか、『なるほど、完全に理解した』と言わんばかりの顔でビリビリグッズを近づけてくる。
僕は絶対に押すなよのノリで首を降ってるわけじゃないんだけど……。
しかし、罰を受ける側になったのなら仕方ない。麗華だって擽りを我慢したのだから、僕もその任務を全うするしかないよね。
そう覚悟を決めた直後、ビリビリグッズもといビリビリペンの先端がふくらはぎの裏に触れた。
「……」
「……」
「……」
「……」
しばらく、ただ無言の時間が流れた。紅葉と麗華はもちろん、今も尚ペンを押し当てられ続けている僕からもリアクションは起こらない。
もしかすると、ビリビリすると思っていたのは勘違いで、これは単にペンをグリグリされるだけの罰なのかもしれない。
そう解釈してチラッとイヴの方を見た僕は、 首を傾げながら先端部分を押して電気が出ているかを確認し、手をプルプルとさせたイヴを見て確信した。
「イヴ、ビリビリペンは先端を人に押し付けてもビリビリしないよ」
「……?」
「僕も今思い出したんだけど、電気は出口の無い方向には進まないと思うんだ」
「……」
イヴは困惑しているらしいけれど、そもそもビリビリペンはペンの先端であるノック部分と、胴部分の銀色の箇所との両方を同じ人が触れることで通電するようになっている。
ノック部分だけを触れさせた場合、単にペンの内部に電気を流しただけで、他の人が銀色の部分に触れたとしても、電気の通り道が作られていないのでビリビリしないというわけだ。
この原理が理解できない人は、乾電池のプラスがマイナスのどちらかだけに銅線を繋いでも何も起こらないことを想像して欲しい。
入口と出口がセットになってようやく通電するということが、容易に想像出来ると思う。
ちなみに、電線に両足で止まった鳥が感電しないのは、鳥の体よりも電線の方が電気の流れる効率が良すぎて、電気が鳥の方へ流れてこないかららしいよ。
ただ、2本の電線へ同時に体が触れると、電圧の差のせいで感電しちゃうみたいだけれど。電線までジャンプ出来る良い子のみんなは気をつけようね。
「今の発言でバレバレね。
「さすが紅葉、お見通しだよ」
「最初の首を振った瞬間に答えてやろうかとも思ったわよ。私の優しさに感謝しなさい」
「紅葉、大好き。ありがとう」
「そ、そこまで言えとは言ってないでしょうが……」
「そう? じゃあ、紅葉大好き」
「残すのはそっちじゃないから!」
怒っているのか照れているのか、赤くした顔をぷいっとする紅葉に、いつの間にか麗華が握りしめていたビリビリペンが、微かにメキッという不穏な音を発したことはまた別のお話。
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