第560話
『第一問 足をくすぐられているのはだーれだ』
そう書いたカンペを見せてくれたイヴは、進行役だけでなく罰ゲームの執行人も兼任しているため、トコトコと小走りでセットの裏側へと隠れてしまう。
このセットの二人の顔が見える枠の位置がよく考えられていて、執行人は枠と枠の真ん中にある目隠しエリアに隠れることでどちらにも手が届くのである。
執行人の動きや音で変な先入観を持たずに判定出来るのは、このゲームの趣旨を間違えずに済むからいいね。
ちなみに、2人の身長差は踏み台を使って限りなくゼロに近づけてある。枠を同じ高さにすることで、誰でもノーリアクション係になれるわけだ。
……いや、罰は受けたくないけれど。
「……」
「……」
もうノーリアクションは始まってるのかなとこちらを見つめる二人の顔を見てみるけれど、どちらも特に変化はない。
ここまでくすぐりを我慢出来るなんてすごいなと感心していると、セットの向こう側から「スタート」という呟きが聞こえてきた。
どうやら隠れた状態では開始の合図をジェスチャーで伝えることが出来ず、どうすべきかと困り果てた結果、声を出したらしい。
こうして姿を見ずに聞くと、本当に双子でそっくりだ。一瞬、ノエルが早めに到着したのかと思ったよ。
「っ……」
「っ……」
開始コールも過ぎたところで、やはり二人の表情が少し変わった。
視線は別の場所を見つめるようになり、何かを堪えるように体に力が入っている。
ただ、実際にくすぐられているのは一人だけのはず。どうして二人ともそうであるかのような反応なのかについては、彼女たちに伝えられたルールが関係していた。
『罰を受けた者(以下A)はノーリアクションを貫き、そうでないもう一人(以下B)は罰を受けて我慢している演技をする。
Aは見抜かれなければご褒美GET、Bは迷わせて選択までの時間を稼ぐほどご褒美をたくさんGET。尚、不正解の場合はAB両方に追加でご褒美を与えることとする。』
つまり、二人のうち一人はそれっぽい演技をして僕を騙そうとしているのだ。
ご褒美の内容に関しては後で決めることになっているけれど、回答者である僕の役目はなるべく迷わずに正解を選ぶこと。
全員にゲーム要素のある面白い暇つぶしだ。こんな案、どうやって思いついたんだろうね。
「
「っ……」
「いや、
「っ……」
揺さぶりをかけてみると、どちらも一瞬だけ視線をこちらへ向けてからそっぽを向いた。
罰を受けてる側はあまりに素直で、受けていない側は演技が絶妙過ぎぎる。これでは余計に分からなくなるだけだ。
ただ、それは二人が見ず知らずの人だったらの話。彼女たちのことをよく知っている僕には、今の一瞬だけも十分な判断材料になった。
「決めた。麗華がくすぐられてるね」
「えっ、どうして分かったんですか?!」
「やっぱり。ちゃんと見ればわかったよ」
「……♪」ドンドンパフパフ
イヴも太鼓とラッパを鳴らしてくれているから正解で間違いないらしい。
僕がくすぐられているのが麗華であると見抜けた理由、それは紅葉は隠し事が苦手でくすぐりにも弱いと知っていたから。
もしも紅葉の方がくすぐられていたのなら、あの程度の反応では済まなかったはず。
対して麗華は色々な人と関わっているから、おそらく本当の表情を隠すのも容易いはず。
そう、これは今だけではなく、これまで積み上げてきた友達としての経験も試されるお題だったのだ。
「ってことで、僕がご褒美貰えるんだよね?」
「……」コク
正解までの時間が2分以内だったので、最大100ポイントの内の85ポイントが僕のものになるらしい。
どういう計算なのかは分からないけれど、沢山貰えているからよしとしよう。
「次は僕が紅葉と交代するよ」
「そうね。私が回答者になるわ」
「……♪」
ゲームに対して積極的な僕たちの様子に、イヴが満足げに頷きながら次のお題を選び始めたことは言うまでもない。
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