第559話

 お風呂でさっぱりした後は、みんなで持ち寄った暇つぶしを見せ合うことになった。

 夕食の準備に取り掛かった瑠海るうなさんには、相変わらず一人で大丈夫だと言われてしまったし、この時間は特にやることがないのだ。


「僕は定番でトランプだよ」

安牌あんぱいね」

「審判のことですか?」

「それはアンパイアでしょ。白銀しろかね 麗華れいか、オヤジギャグにでもハマってるのかしら」

「知らないのですか? ギャグは近年、乙女の嗜みになりつつあるのですよ」

「そんなことはありえないし、そうだとしても私は場の空気を凍らせるくらいなら黙っておくわね」

「凍らせる? 笑って下さっていますよ?」

「あなた、幻聴でも聞こえて――――――――」


 紅葉くれはがやれやれと首をふりかけた瞬間、視界の中心に捉えたイヴの様子に言葉が引っ込む。

 確かに笑い声は聞こえていないけれど、彼女の肩が小刻みに震えていたのだ。口角も心做しか上がっているような気がしないでもない。


「イヴちゃん、こういうのが好きなのね……」

「……」コクコク

「僕も何か言ったら笑ってくれるかな」

「試してみたらいいんじゃない?」

「……ごめん、自分が面白い事を言える人間じゃないことに気がついたよ」

「……」クスクス

「良かったですね、笑ってくれてますよ」

「笑われてるの間違いだと思うけど」


 とりあえず、イヴにはオヤジギャグがウケるということは胸に刻んでおくとして、紅葉が持ってきた暇つぶしに目を向ける。

 こちらもトランプと同じでカードみたいだけれど、安牌だと言った割には自分もかなり王道を持ってきていた。


「UN〇だね」

「……何か悪い?」

「いいと思うよ、面白いし」

「でしょう?」


 やはり王道は外せないし、王道になるだけあって新参にも劣ることもない。

 だからU〇Oでもトランプでも、友達と一緒なら楽しめるとは思うけれど、そんな考えは麗華が広げたアタッシュケースを見た瞬間に吹き飛んだ。

 その中には窪みにハマるようにカードが入っていて、その表面には王様と奴隷、市民が描かれている。

 何だかどこぞの地下労働ギャンブル漫画で見たことがある気がするけれど、本当に暇つぶしで完結する遊びなのかな。

 暇をつぶしたと思ったら、人生まで潰れてましたなんてイヴでも笑えない展開になりそうで怖いね。

 いや、麗華のことだし、さすがに僕たちから搾取することはないと思うけれど。


「イヴは何を持ってきたの?」


 何やらお絵描き帳のようなものを横に置いていたイヴにそう聞くと、彼女はその初めのページを開いて僕たちに見せてくれた。


『嘘つきだーれだ』


 そう書かれたページを捲ると、事前に綿密なルールを練ってきてくれたのか、びっしりと文字が書かれてあるのが分かる。

 ただ、あまりに細すぎるので一言で表すと、二人いるノーリアクション係のうち、本当に罰ゲームを受けているのはどちらかを当てるというものだ。

 ちなみに、ノエルとその友人で実験したところ、彼女自身はノーリアクション過ぎて面白みがなくなるので罰を用意する係になるとのこと。


「いいね、それやってみたい」

「確かに面白そうだけど、罰ゲームなんてどうやって用意するのよ」

「この別荘に使えそうなものはありませんよ?」

「……♪」


 心配ないと言わんばかりに親指を立ててからカバンを取りに走った彼女は、戻ってくるなり机の上にあらゆるものを広げて見せた。

 ビリビリグッズにヘッドホン、スースーするクリームもあれば、足つぼを刺激するマットまで。

 荷物を運んであげた時にやたら重いとは思ったけれど、まさかこれが全部詰め込まれていたとは思わなかった。

 ところで、カバンからチラッと電動マッサージ器っぽいものが見えたけど……あれは罰ゲームには使わないのかな。

 そんなことを思いながら首を傾げていると、いつの間に準備していたのか、ダンボール製の上半身だけが見えるように穴の空いたセットを引きずってきた。

 どうやら瑠海さんに頼んで作ってもらっていたらしい。あの人は仕事となると本当に何でもやるんだね、最初は仕事が出来ないメイドさんのフリをしてたなんて思えないよ。


「ここまで準備されて、やらないという選択肢はないね。せっかくだからやってみよう」

「……♪」ドンドンパフパフ

「どこから取り出したのよ、その太鼓とラッパ」

「イヴさんの執念と努力が一番のエンターテインメントですね」

「まったくだよ」


 何だかんだ一番ウキウキしながら罰ゲームグッズをセット裏へと運んでいくイヴに、僕たちが思わず頬を緩めたことは言うまでもない。

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