第544話
「じゃあ、今度は私の番ね」
「何だろう」
「ふふ、どれにするか結構悩んだんだから。ありがたく受け取りなさいよ」
ドヤ顔で胸を張る彼女に見つめられつつ、ワクワクしながら箱を開けてみると、中に入っていたのは普段履くのよりも少し長めの靴下。
家やお出かけで身につけるというよりかは、スーツや正装を着る時に合わせる大人用のものらしい。
こちらも基本的には僕好みの大人しめなデザインで、ズボンに隠れる部分で見えないオシャレをしているところが高ポイントだね。
こういうのは座った時だけ、裾が少し上がってチラっと見えたりするんだよ。いや、オシャレなんて意識したことないけど。
「すごく嬉しいよ、ありがとう」
「どういたしまして。うちの制服に合わせても合うように選んだから、たまには履いて来なさいよ」
「言われなくてもそのつもりだった」
「んふふ♪」
口元を手で隠しつつも、それでは抑えきれなかった嬉しさが全身から溢れている。
貰った僕も喜んで、あげた紅葉も喜んで。やっぱりプレゼントってのはみんなを幸せにするんだね。
ところで、プレゼントで思い出したけれど、猫が飼い主に捕獲したネズミをプレゼントするのは、狩りが成功したことを自慢するためって聞いたことがある。
あれに限っては、ウィン・ウィンの関係が成り立たないかもしれない。僕がネズミを貰ったとしても、苦笑いするか逃げるだろうし。
「靴下ですか、大胆ですね」
「何がよ。プレゼントの定番じゃない」
「プレゼントするものとしてはそうでしょうが、きっと私が腕時計をプレゼントした意味を調べましたよね?」
「ええ、まあ……
「それなら、靴下にも意味があるんじゃないかと思いせんか?」
「……確かに」
紅葉は全く意味なんて考えていなかったようで、麗華の言葉を聞いてようやく気になり始めたらしい。
『大胆だ』と評価しただけある彼女は既に知っているようで、にんまりと笑いながら「相手を踏みつける、見下すという意味ですよ」と教えてくれた。
「なっ……そんな酷い意味だったの?! じゃあ、靴下をあげてる人はみんなそんな……」
「ただし、これは男性が女性に送る場合です。
「一応ってどういう意味よ!」
「だって、胸元が平らじゃないですか」
「……あなた、今全国の胸が小さくて悩んでる女子を敵に回したわよ」
「そんな方々を黙らせるだけの資金が私にはありますけどね」
「ゲスすぎるにも程があるわ」
全国の胸が小さくて悩んでる女子を代表して怒っている紅葉だったが、耳元で靴下をプレゼントする本当の意味を聞かされると、お説教された犬のようにしゅんとしてしまう。
かと思えば、じわじわと耳まで真っ赤にして、「やっぱりあげない!」と靴下を取り返された。
「ええ、嬉しかったのになぁ」
「ま、また別の機会に何かあげるわよ」
「気に入ったからその靴下がいいんだけど」
「わがまま言わないで!」
「わがまま言ってるのは紅葉だと思うよ?」
本人にもその自覚があったようで、僕の言葉を聞いた彼女は下唇を噛み締めて、「だったらくれてやるわよ!」と箱を押し付けるように渡してくる。
明らかにおかしな挙動に僕が「どういう意味だったの?」と聞くと、彼女は上目遣いでこちらを見上げながら呟くように聞いた。
「知りたいなら責任取りなさいよ?」
「そう言われると怖いなぁ」
「取るって言いなさい!」
「わかった、取るよ」
「言ったわね、約束破ったら許さないわよ」
やけに念を押してくる紅葉に表面上頷いておいた僕は、答えを教えられて思わずなるほどと吐息を漏らしたことは言うまでもない。
だって、女性が男性に靴下をプレゼントする意味合いが、『私を好きにして』ということだったのだから。
「確かに大胆だね」
「う、うっさい!」
「でも、紅葉は意味を知らなかったんでしょ?」
「それはそうだけど……まあ、瑛斗なら好きにされてもいいって言うか、ねぇ?」
「あ、この靴下よく見たら模様のひとつが猫のシルエットになってる」
「……ちゃんと聞きなさいよ、バカ」
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