第542話

 あれからじゃんけんが繰り返され、次々にプレゼントがみんなの手に渡っていった。

 イヴには萌乃香ものかから、リモコンで動く猫耳カチューシャ。麗華れいかにはノエルから、使用することのなかったアイドルの衣装。

 そのノエルには、イヴから『一日お願いを聞く券』なるものを送られていた。

 最後のやつはこの場だからよかったけれど、誰にでも彼にでも送っていいやつじゃないね。法的拘束力は無くとも、悪用されたら困るし。

 それはともかく、プレゼントを送った側と受け取った側のそれぞれの会話がこんな感じだ。


「……?」

「似合ってますよ、イヴちゃんさん!」

「……♪」

「ほら、このリモコンを使うと耳の角度を変えられるんです」

「……!」パチパチ

「んふふ、ぴょこぴょこして可愛いですよね」

「……」コクコク

「気に入ってもらえたみたいで嬉しいです!」


「ノエルさん、こんなの貰っていいんですか?」

紫波崎しばさきにも許可を貰ってるから大丈夫! いつも、選考で選ばれなかった衣装は寄付されるか捨てられるかで私の手元には残らないし」

「それなら安心しました。私には少しキラキラしすぎな気もしますが、大事に保管しておきますね」

「えへへ、こっそり着ちゃってもいいよ?」

「ふふ、前向きに検討させてもらいます」


「一日お願いを聞く券?」

「……」コク

「イヴちゃんったら、こんなのが紅葉くれはちゃんや麗華ちゃんに渡ったら大変なことになるよ?」

「ちょっと、どういう意味よ!」

「その発言は見逃せません!」

「2人は黙っててね、今は二人の時間だから。ところでイヴちゃん、この券が無いとお願い聞いてくれないの?」

「……」フリフリ

「だよね♪」


 3組とも実に微笑ましい光景を見せてくれた。おかげでこの部屋は暖房要らずだよ。

 でも、同時に残りのプレゼントの数も減ってきている。まだ受け取っていないのは、萌乃香と本当にだけなのだから。

 そしてじゃんけんに勝ったのは萌乃香、引いた番号は『1』。持ってきた箱を見て突然立ち上がった奈々ななが、駆け足で2階から自分の座高程度あるぬいぐるみを持ってきた。

 つまり、箱はこれと引き替えるためのものであり、このプレゼントは奈々からのものというわけだ。


「わあ、大きなバナナの抱き枕です!」

「……なんだか、萌乃香先輩が持つと健全なバナナが意味深に見えますね」

「どういうことですか?」

「いえ、こっちの話です。出来れば気付かないままでいてください」

「……はい?」


 バナナを抱きしめる自分が客観的にどう見えているのかに気付いていない彼女は、キョトンとしながら座り直す。

 そう言えば、小さい頃に奈々が『バナナ』というあだ名を付けられて落ち込んでいたことがある。もう乗り越えたんだね。

 なんてことを思い出していた僕だが、ふと参加者たちを見回してハッとした。自分以外、全員がプレゼントを受け取っているのだ。

 そして、残っているプレゼントはあとひとつ。問題はその内容だ、もうみんな気付いているらしいけれど。


「まだ選ばれてないのって、瑛斗のプレゼントだけのはずよね」

「受け取る側も瑛斗さんしか残っていませんよ?」

「プレゼント……って言っていいのかな」

「自分で自分にって、もはや自分へのご褒美?」

「……?」

「これは大変なことになりましたね」


 いや、正直あのドデカハンモックセットが他の人に渡らなくて良かったという気持ちはある。

 けれど、せっかくのプレゼント交換だ。一人だけだけからも貰えなかったなんて、一年後に思い出したらちょっと悲しい気持ちになるだろう。

 出来れば誰かと交換したいけれど、既にみんなプレゼントの主と言葉を交わしてお礼を伝えている。

 既に気持ちがそちらへ向いた贈り物を、また交換するなんて恐ろしいことをしても許されるのかな。

 そんな疑問は、僕のプレゼントを欲しそうに見つめている4人の提案によって幕を閉じたのだった。


「瑛斗のプレゼントって何かしら」

「ハンモックセットだよ。ほら、キャンプとかで寝てるイメージがあるやつ」

「それなら、瑛斗さんの部屋に置いておいてもらいましょう」

「遊びに来た時にみんな使えたら楽しそうだよね!」

「私も先輩たちの意見に賛成! 家に遊びに来る前提なのは気に入らないけど」

「えっと、じゃあみんなにプレゼントってことで」


 無事に『他の人へプレゼントする』という目的は果たした僕がその後、4人それぞれから新しくプレゼントを用意すると約束されたことはまた別のお話。

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