第541話

 ケーキが食べ終われば、今度はお待ちかねのプレゼント交換の時間だ。

 僕が持ってきた大きめの箱を見て予想通り驚かれてしまったけれど、嫌がると言うよりかは中身が気になっているらしかった。

 なんだか少しほっとしたよ。これを機にあだ名がハンモックマンになったら悲しかったからさ。


「それじゃあ、プレゼントにそれぞれ番号を書いた付箋ふせんを貼っていきますね」

「それと同じ番号が書かれた紙が、机の上に裏向きで置かれているわ」

「じゃんけんで勝った人から紙をめくって、番号が同じプレゼントを受け取るんですね」

「はい、その通りですよ」


 麗華れいかたちが考えた方法で交換を行うことになり、ぐちゃぐちゃにシャッフルした紙を並べていく。

 こういう場合、初めの方が選択肢が多いけれど、残り物には福があるとも言うからどっちがいいのか悩むよね。

 まあ、今回に限ってはどれを選んでも福しかないとは思うけれど。


「行きますよ? じゃんけん――――――」

「「「「「「「ポン!」」」」」」」


 一斉に前に出した手を順番に確認していく。大人数でのじゃんけんは大抵一度はあいこになりそうなものだが、偶然にも今回はチョキを出した紅葉くれは以外が全員パーだった。


「私が一番手ね。じゃあ、これにするわ」


 そう言いながら彼女が引いたのは『6』。プレゼントの中から同じ番号を探して持ってくると、包装された箱は円柱型の少し特殊な形をしている。

 一体何が入っているのかと丁寧に包み紙を外して開けた瞬間、中を覗き込んだ紅葉は口元を手で抑えながら信じられないという顔をした。


「何が入ってたの?」

「こ、これよ……」

「ぬいぐるみ?」

「ただのぬいぐるみじゃないわよ」


 歓喜する紅葉によると、いつぞやの『デブ猫ライフ(通称ネコライ)』の作者が書いた新作漫画の初回限定盤に付けられた引換券が無ければ手に入らない逸品らしい。

 彼女は発売日に買いに行ったものの、最後のひとつを割り込んできたおばさんに取られたため、泣く泣く諦めていたそうな。

 ただ、そんな話を知っているのは、話した覚えのある麗華以外に居ないわけで――――――――。


「良かったですね、他の人の手に渡らなくて」

白銀しろかね 麗華れいか……」

「私にかかれば、ぬいぐるみを特別にもうひとつ用意してもらうことくらい容易いことです。それに、プレゼントにちょうどいい大きさでしたし」

「ふふ、ありがと!」

「……まあ、満足して頂けたのなら良かったです」


 素直にお礼を言われて照れたのか、視線を逸らしながら「次、行きましょう」とみんなを急かす麗華。

 全員がそれを分かっていながら、緩みそうになる頬をを何とか抑えてグーを前に差し出した。

 そして、次に勝利したのは奈々なな。引いた番号は『3』で、持ってきた箱は比較的小さい。

 紅葉と同様にそれを開いた彼女は、中から取り出したさらに薄っぺらい箱を見て首を傾げた。


「なんだろう、これ」

「あ、それは私が選んだやつよ」

「紅葉先輩が?」

「ええ、ワイヤレスイヤホンだと思ってくれたらいいわ」


 薄っぺらい箱を開けてみると、中にはU字型の何かが入っていて、両端は引っ掛けられそうな形をしている。

 実はこれ、骨振動で装着した本人のみに音を聞かせるというイヤホンなのだ。

 つまり、電車の中でどれだけ大音量にしても、イヤホンが触れていないため他の人の迷惑になることは無いという優れものということである。


「……なんだか前が見えづらいんですけど、付け方合ってます?」

「前に装着してどうするのよ。後ろよ、後ろ」

「ああ、なるほど」

「どう? よく聞こえるかしら」

「聞こえますね、先輩の声が」

「それは目の前にいるんだから当たり前でしょう?」


 そんなやり取りをしていた紅葉がその後、「やっぱり私にしか聞こえてないんですね」といつの間にか盗撮されていた自分の動画を見せられ、消す消さないの喧嘩になったことはまた別のお話。

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