第527話

 ようやくお互いにおもりに慣れてきた頃、僕は女の子を膝に乗せて頭を撫でてあげている506ゴーレムさんの真似をしながら、彼女に気になっていたことを聞いてみた。


「そう言えば、506ゴーレムって呼ばれ方……」

「お察しの通り、私の番号です。私の家系では御屋敷で働くことになった時に、ランダムで3つの番号が配られるんです」

「へえ、そういうシステムだったんだ」

「メイド長は101ワンオーワン、副メイド長は105イチマルゴ。そうやって呼びやすいように並べ替えるんです」

「だから、メイドさんはみんなコードネームみたいな呼ばれ方をしてたのか」

「私も何とかそうしようと思ったのですが……」

506ゴーレムしか思いつかなかったと」

「……はぃ」


 この話を聞いてまず思ったのが、ようやく前から薄々感じていた疑問がかいけつされたということだった。

 だって、僕が知っているメイドさんを全員並べても、通し番号順にするとあまりにも空白が多すぎるから。

 そのメイドさんたちはやめてしまったのか、それとも何か闇の組織が絡む事件があったのか。はたまた認知症の薬の実験台にされたのかもしれない。

 そんな不安が、ビタミンB4が存在しない理由を聞いた時と同じ感覚で納得出来た。


「5、0、6なら、560ゴローマルとかは?」

「うーん、それはちょっと……」

056マルコポーロとか」

「何だか恥ずかしいです……」

「じゃあ、506ゴーレムで我慢するしかないね」

「……」

「なんなら、僕が麗華に頼んで、麗華から信介しんすけさんに番号の変更を頼んでもらえないか聞いてもらおうか」

「で、でも、新人の私がお願いだなんておこがましいです!」

「新人だからこそ、これから付き合っていく自分の呼ばれ方は大切にできるものであるべきなんじゃないかな」

「……狭間はざまさん」


 麗華の頼みならきっと信介さんも無闇に断ったりはしないだろうし、麗華だってメイドさんのお願いを無視するようなお嬢様ではない。

 ここで働いているメイドさんたちが、いつもみんな楽しそうにしているのを僕は知っているから、現506ゴーレムさんにもそうであって欲しかった。


「でも、ゴーレムって優しくて強いイメージだよね。僕は悪くないと思うけど」

「いえいえ! 私なんて強くもない、優しくもない平々凡々な人間ですから!」

「少なくとも、優しいとは思うよ。僕と話してる間もこの子たちのことを気にかけてくれてるでしょ」

「そ、それはお仕事なので……」

「子供が苦手なのにそれが出来るのは、506ゴーレムさんの気持ちが優しいから。違うかな?」

「……でも、強くは絶対にありません!」

「それはこれからそうなっていけばいいだけだよ。その番号が自分を表すものじゃなくて、自分がなりたいものを表していると思えばいい」

「私が、強くて優しい人に……?」

「うん。別に誰かを守るための強さじゃなくても、誰かに力を与えられる人、誰かを突き動かせる人も僕は強いと思うから」


 その言葉に少しくらいは心を動かされてくれたのか、506ゴーレムさんは小さく頷くと、おもちゃで遊びたいと言う女の子を立ち上がらせる。

 そして2人を追いかけて自分も積み上げられたブロックの方へと向かう途中、こちらを振り返りながらにっこりと笑って見せてくれた。


「もう少し、この番号で頑張ってみます!」

「うん、それがいいと思う」


 彼女はきっといいメイドさんになる。その未来がはっきりと見えるほど、キラキラとした笑顔だったよ。

 そう思いながらウンウンと頷いていると、部屋の扉が開いて瑠海るうなさんが入ってくる。

 彼女は子供と戯れる506ゴーレムさんを一瞥いちべつすると、「この短時間で少しはメイドらしくなったようですね」と呟いた。


「生地が完成しましたよ。お嬢様方も型抜きを楽しみに待っておられます」

「もうそんな時間ですか」

「新人の面倒を見ているとあっという間でしょう」

「いや、僕が見てたのは女の子……ああ、初めからそのつもりだったんですね」

「常々、察しが良くて助かります」


 鬼教官の実は優しい裏の顔を見たような気がしたけれど、これは506ゴーレムさんには伝えない方がいいだろうね。

 きっと、彼女が成長して一人前になった時、瑠海さん自信がそのお面を取って頑張りを褒めてあげるべきだろうから。


「……どうしてそんなに見つめるのですか?」

「いえいえ、なんでもないですよ」

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