第520話
あれから4人で人生ゲームを遊んだ僕たちは、ゲーム終了時点の手持ち残高を見比べて言葉を失った。
「は、破産ですぅ……」
イベントで手に入れた建物や権利を売り払っても尚、銀行からの借金が2000万円も残っている。
ちなみに、このゲームにおける2000万がどれくらいの価値かと言うと、最も利益が大きいイベントマスに最悪10回止まらないとゼロにならないレベルだ。
どうしてこうなったのかと言うと、萌乃香が最高にツイていなかったとしか言いようがない。
今回やった人生ゲームには、イベントに書かれた利益や不利益が何倍になるかのルーレットシステムがあるのだ。
9割方1倍か2倍のはずなのだが、マイナスが大きい時に限って彼女は最大の10倍を引き当ててしまい、2000万でもかなり減らした方ではある。
最初の方は萌乃香が独走状態だったんだけどね。調子に乗って株イベントに全財産を掛けたから、神に見放されちゃったのかな。
何はともあれ、堕ちていく人を見て悪い笑みを浮かべていた妹と友人には、もう少し拾う神になる努力をしてもらいたいよ。
「もう私はダメです……自己破産するしかないんです……」
「ちょっと、あくまでゲームよ? そんな思い詰めた顔はやめてちょうだい」
「ゲームの中の我が子にお腹いっぱい食べさせれると思って投資したのに……うぅ……」
「……いや、そっちのカブじゃないわよ?!」
「騙されました、二度と株なんてしないです!」
「完全に先輩の自滅なんですよね」
「まあまあ、2人とも責めないであげてよ」
株式と野菜のカブを勘違いすることは、小中学生ならよくあることだ。どうぶつ〇森をやっていた人なら尚更。
萌乃香はその点で少しばかり頭が回っていなかっただけで、狂行を止められなかったこちらにも責任がある。
『浅漬けと千枚漬け、どっちが好きですか?』と聞かれた時に気付くべきだったのだ。彼女が株を食べ物だと思っていると。
「このゲーム、確かお金の貸し借りはルール違反じゃなかったよね」
「まあ、ダメとは書いてないわ」
「じゃあ、少ないけど僕の手持ちの300万をあげる」
「い、いいんですか?!」
「どうせゲームが終わったら紙切れだからね。少しでも人のために使える紙切れなら価値も見い出せるよ」
「わぁ、
「300万の神様なら、きっと神社も廃れてるね」
このやり取りによって僕の残金はゼロ。萌乃香の借金は何とか1700万までは減った。
ゲームなので残っていてもペナルティは存在しないけれど、やっぱり妹というのは兄を見て育つらしい。
奈々は「じゃあ、私のもあげますよ」と手持ちの900万を彼女の前に置いてくれる。おかげで借金は1000万を下回る800万まで減った。
ここまで来たのなら、全員ハッピーエンドで終わりたい。そんな気持ちが3人の視線に込められていることを察したらしい紅葉は、ビクッと体を跳ねさせてフリフリと首を横に振る。
「わ、私は渡さないわよ? こういうゲーム、
「先輩、勝ちより大事なものがありますよ」
「そうだよ。それに、萌乃香には幸せにしなきゃいけない存在がいるんだから」
「うっ……」
意地を張っていた紅葉も、僕がイベントによってゲーム側から『萌乃香の娘』という役割を与えられた人形をトコトコと歩かせると、「し、仕方ないわね!」と手持ちを全て萌乃香に譲ってくれる。
これでついに萌乃香の借金は完済。全員がゼロ円で同立1位……ではなく、900万だった紅葉の財産を譲り受けたことで、ビリの萌乃香の逆転優勝が決まった。
「えへへ。では、私から皆さんに25万円ずつ譲りますね♪」
「いいの?」
「これでみんな優勝です」
「……結局、馴れ合いじゃない」
「そんなやれやれ感出してますけど、一番多く払ったのは紅葉先輩ですからね?」
「う、うっさい!」
その後、もう一度プレイした結果、大勝利を掴んだ紅葉がご満悦だったことは言うまでもない。
「ふっ、今度は奈々ちゃんが借金? 3000万でゴールした私が譲ってあげてもいいのよ?」
「べ、別にいらないです……」
「今回、借金1万円ごとに1回腕立て伏せって罰ゲームを設けたのは誰だったかしら?」
「……私ですけど」
「700回もしたら腕が太くなっちゃうわよね。優しい紅葉先輩に可愛くお願いすれば、回避させてあげるのになー?」
「うぅ、お願いします……」
「そんなんじゃ、出せて5万ね」
「…………」
絶望した表情の奈々の代わりに僕が「何でも言うこと聞くから」と頭を下げたら、あっさり1000万出してくれたけどね。
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