第505話

 麗華れいか瑠海るうなさんが仲直りをした翌日、僕は学校に足を運んでいた。

 別に悪いことをして呼び出されたとか、褒められることをして表彰されるとかでは無い。

 この説明をするには、時を昨晩の風呂上がりまで巻き戻す必要があるだろう。

 ……こんな時、アニメみたいにホワホワホワと頭の上に回想シーンの映し出される煙が出れば便利だろうね。


 プルルルル♪プルルルル♪


 時は昨晩の20時頃。ちょうどパジャマに着替え、まだ少し濡れている髪をバスタオルで拭いていた頃。

 リビングの方に置いていた学園デバイスへの着信音が聞こえ、僕は小走りで電話に出た。

 すると、スピーカーから聞こえてきたのは聞き覚えのある声。確か、転入早々に肩を揉んで欲しいなんて言ってきた女教師のものだ。


狭間はざま君、今は時間大丈夫かな〜?』

「こんな夜遅くにかけなきゃいけない内容なら大丈夫です」

『ご、ごめんなさいね。みんなに電話してるのに、誰も出てくれなくて』

「良かったですね。僕が先生の番号を登録してなくて」


 電話の相手である綿雨わたあめ 美里みさと先生は再度謝ってくれるので、正直そこまで迷惑だとも思っていない僕はすぐに本題へと移ってもらう。

 みんなに電話をするというレベルなのだから、大切な連絡事項でもあったのだろう。

 残念ながら、僕はクラスのグループRINEの存在の有無すら知らないので、聞いたところで自分からの拡散は不可だけれど。


『その、明日って学校に来れるかな?』

「明日ですか、特に予定は無いですけど」

『じゃあ、お昼頃でいいから来て欲しいの』

「構いませんが、何をすればいいんです?」

『うさぎの餌やりと小屋の掃除かな』

「うさぎ? そんなの居ましたっけ」

『クラスで飼ってるのよ。学年の始まりに飼育委員を募集したけど、誰もやりたがらなくて……』

「ああ、それなら僕が知らないのも納得です」


 先生の話によると、飼育委員は決まらなくともうさぎの世話はしなくてはいけない。

 だから先生たちの交代制で育てていたものの、長期休暇中はほとんどの先生が学校に来ないため、この期間だけは飼育員さんを雇っているんだとか。

 ただ、明日来るはずの人が体調不良で急遽来れなくなり、別の人を呼ぼうにも人手不足だと言われてしまった。

 そういうわけで、一日でいいからクラスの生徒に飼育委員を務めて貰いたい……とのこと。


「先生は来れないんですか?」

『明日は仕事……いえ、用事があるの〜』

「今、仕事って言いましたよね? 教師って副業大丈夫なんですか?」

『きょ、教師の方が副業だから!』

「いやいや、むしろその方が問題ですよ」


 まあ、別に綿雨先生が副業をしていたとしても、僕には何の弊害もないから気にする必要は無い。

 そう割り切ろうとして、よく考えたらそのせいで飼育委員をさせられるのだから、弊害は少しではあるけれど存在しているなと思い直した。

 とは言っても相手するのはうさぎだ。ライオンみたいな肉食の獣ではないし、危険があるとすれば小屋から出られなくなるくらいだろう。

 断るほどの理由でもないし、聞けば副業の内容は祖父母から受け継いだアパートの掃除……と、知り合いの男の子のお世話。

 後ろについているものは気になるけれど、祖父母を出されれば告げ口をするなんてできるはずがない。

 結局、みんなおじいちゃんおばあちゃんが好きなのだ。何か悪いことをしそうになった時は、2人の笑顔を思い浮かべるといいだろう。

 人によっては、『やるんじゃ』『さすがワシの孫じゃ』と悪魔の囁きになってしまうかもしれないけれど。


「まあ、暇なので行きますよ」

『ありがと〜! 今度、お礼はするからね〜♪』

「それは別にいいですけど、貰えるなら貰っておきます」

『先生の肩を揉める券にしようかな〜』

「やっぱり行くのやめます」

『じょ、冗談だよ〜?』


 その後、食堂のりんごジュース三本で手を打ったことは言うまでもない。

 それにしても、先生はどこから僕がりんごジュース好きだと言う情報を仕入れたのだろうか。

 ……あ、そっか。プロフィールの【特徴】の欄(AIが自動で入力するやつ)に書かれてるんだっけ。

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