第496話
僕たちは「こちらです」とスタスタ歩いていく
これ以上奥には行きようがないし、ここが彼女の部屋ということになるのだろうか。
立ち止まったまま動かない瑠海さんの後ろ姿にそんなことを思っていると、彼女は何やら深刻そうな雰囲気でこちらを振り返る。
「ここから先は、皆さんを信用してお見せします。くれぐれも他のメイドには言わないでください」
「それほど大変なものが隠されてるんですか?」
「ええ、知られれば全員を消さなくてはなりません」
「そ、そんな秘密なら知らない方が……」
そう言って逃げ出そうとする
もちろん彼女もがっしりと掴んでくるその腕を引き離そうとするけれど、イヴが無表情のままプルプルと震えているのを見ると、仕方ないとばかりに抵抗をやめた。
「怖いなら2人とも見なくていいよ。僕だけで行ってくるから」
「ほ、ほんと?」
「……!」
「その代わり、『何があったの』なんて聞かないでね。見に来なかった人に情報は漏らせないから」
「うっ……」
「……」シュン
「それを考慮したうえでどうするか考えて」
僕の言葉を聞いて同時に首を捻った彼女たちは、しばらく悩んでから「やっぱり行くわ」「……!」と首を縦に振ってくれる。
さすがに瑠海さんの秘密を一人で背負うのは重すぎるからね。3人で行けることになって、正直ホッとしちゃったよ。
「では、開けますね」
「「お願いします」」
「……」ゴクリ
ポケットから取り出された特注の鍵に視線が集中する。それが鍵穴に差し込まれると、『オカエリナサイ、
これだけで他の部屋との違いを感じる。こういう緊張するシーンこそ少年心が沸き立つようで、今の僕は不思議とドキドキワクワクしている。
見た目は同じだと言うのに、ハイテクな鍵にハイテクなドア。余程大切なものが隠されているはずだ。
そう信じて疑わなかったから。
「こちらが私の部屋となります」
「……えっと、まあ、部屋ね」
「……The 部屋だね」
「……」ガックシ
「そんなに落ち込まれると傷つきますよ」
「すみません、期待しちゃって」
瑠海さんがメイド機動隊の一員だからと言って、恐ろしいものやかっこいいものがあると思い込んでいた僕たちの方が悪い。
彼女だって普段は普通のメイド、普通の女性。綺麗に整えられたメイド長のものとそう変わらない部屋だとしてもなんらおかしくないのだ。
僕たちがそう自分に言い聞かせながら、嫌でも感じてしまうガッカリさを消そうとしていると、何やら瑠海さんは本棚に近付き、机の上に置いてあった一冊の本を手に取った。
「
「『ピーターパンは食べられないパンに含まれるのか』……変なタイトルですね」
「初耳でしょうか。まあ、そのはずです」
彼女が「中身は白紙で、タイトルだけの本ですからね」なんて言いつつ、それを一つだけ空いた隙間に片付けた瞬間、ガコンという金属音が聞こえて本棚が横へスライドされる。
それによって目の前に現れたのは、隠しエレベーター。どうやら下に続いているらしい。
「これが夢にまで見たからくり……」
「本当に存在したのね」
「……♪」
やはり瑠海さんの部屋にはかっこいいものが存在した。その事実だけで、僕たちのテンションは急上昇。
イヴは余程スライドする本棚が気に入ったようで、本を出し入れしてはトコトコと移動する隙間を追いかけている。
唯一難点があるとすれば、動く度にガコンガコン言うので、他のメイドさんに不審がられることだろうね。夜中には動かせないよ。
「では、行きましょう」
真面目な顔でそう言う瑠海さんに手招きされ、エレベーターに4人で乗り込む。
しっかりと囲われたタイプではなく、三方が金網、乗り込んだ部分は鉄格子の自動扉になっているところがまた良い。
インディー〇ョーンズもびっくりなこの仕組みに胸を高鳴らせる僕たちは、この後空いた口を閉じることすら忘れるほど唖然とすることをまだ知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます