第494話
手錠事件の翌日、僕は
代わりに、何故か早朝からノエルの寝顔の写真を送ってきたイヴを誘って行くことにした。
ご飯はみんなで食べた方が美味しいだろうし。どうせなら
そんなことを考えているうちに大きな門の前に到着すると、向こう側で待っていてくれた
「お久しぶりですね」
「こんにちは、瑠海さん」
「今は
「別にいいじゃない。私たち、そこそこ親しくなったつもりだったのよ?」
「……では、旦那様の前以外でお願いしますね」
無表情なものの、満更でもなさそうな雰囲気で頷いた彼女は、僕たちを中へと招き入れる。
相変わらず凶暴なチワワたちは紅葉のお尻を密かに狙っているが、さすがに敵ではないと覚えてくれているようで襲っては来なかった。おかげで安全に屋敷内に入れたよ。
「お嬢様はキッチンで料理をなさっているので、少し家の中を見て回るようにと言われていますが」
「家の中を?」
「まだ2階に行ったことはありませんでしたよね。時間を潰すには丁度良いかと」
「確かに、完成まで時間がかかるなら暇になっても仕方ないものね」
「……」コクコク
「じゃあ、案内を頼めますか?」
「それが私の仕事ですから」
要するにOKということだろう。瑠海さんは「これで月給が出るなんて、私は恵まれていますね」なんて言いつつ、国会議事堂ばりの大きな階段を上って2階へと向かう。
赤い絨毯の踏み心地が一階と少し違って感じるのは、まだあまり踏まれていないからだろうか。
1階だけでかなり広さがあるだろうし、そもそも使う必要がないのかもね。瑠海さんも物置や奥様が趣味で書いた絵を置く部屋がほとんどだって言ってたし。
「こちらの部屋から紹介しましょうか」
「何の部屋なんですか?」
そう質問しながら中へはいると、広々とした部屋の中に赤、青、黄のパイプのようなものがあちこちへ張り巡らされている。
その端にある緑色の滑り台の先にはカラフルなボールが敷き詰められており、聞くまでもなく遊び場であることは明らかだった。
「お嬢様の……いえ、お嬢様達の遊び場ですね。幼少の頃はここでよく遊んでおられました」
「……
「そうです。あの事故から、旦那様と奥様は一度もここの扉を開いたことはありませんが」
「記憶に留めることだけが正しい弔いだとは限らないもの。仕方が無いと思うわ」
「そう、ですね。すみません、端から紹介するだけつもりが、いきなりしんみりとさせてしまって」
「……」フリフリ
「……ありがとうございます、イヴ様」
おそらく麗華から何も聞いてはいないであろうイヴだが、それでも何となく察したのだろう。
瑠海さんの背中をポンポンと叩くと、『大丈夫』という気持ちを込めて優しく撫でてあげていた。
今はメイドとして働いている彼女自身も、昔は麗華たちのお姉さん的な存在として一緒に遊んでいたという話は修学旅行で聞いた。
それはつまり、瑠海さんも妹的な存在を失ったということになるわけで。
仕事で掃除に来なければならないこともあるだろうし、入るのも辛い場所だから、ここを先に終わらせておきたかったのかもしれないね。
「では、次に行きましょうか」
「瑠海さん、やっぱり座って待ってましょうか?」
「私もそれでいいと思うわ。何だか、次もこういう雰囲気になる気がするもの」
「……」コクコク
「お気遣いありがとうございます。でも、もう大丈夫ですよ。次は住み込みで働くメイドの部屋を見て頂くので」
「え、メイドさんの部屋?」
反射的にそう聞き返すと、「
しかし、隣で活き活きと瞳を輝かせたイヴが、早く早くと言わんばかりに瑠海さんの背中を押して進み始めるのを見て、思わず鋭かった視線を丸くしてしまった。
「イヴちゃん、メイドが好きだったのかしら」
「イヴが好きなのはノエルだけだと思ってたけど」
「私もそうよ。意外な趣味を見つけちゃったわ」
「僕もメイドさんは好きだけどね」
「あなたはメイド服さえ着れば、誰でもいいんでしょうが」
「よく分かってるね。じゃあ、紅葉に合うメイド服をかしてもらおうか」
「か、勘弁して……」
その後、偶然通りかかったメイド機動隊の一員である
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