第492話
数分後、僕はドアを蹴り破った
あの状態の
自分の貯金箱の中身を思い出しつつ、ソファーに寝転ばされたまま少し憂鬱な気分になっていると、犯人確保とばかりに紅葉が連行されてくる。
ようやく正気に戻ったのか真っ赤な顔の彼女はリビングの床に正座させられると、何やらお説教タイムが始まった。
「紅葉先輩、うちのお兄ちゃんに何してくれてんですか」
「い、今のは気持ちが昂ったせいというか……」
「その割に手錠なんて準備しちゃって。計画的犯行ですよね?」
「違う、とも言えないけど……」
「お兄ちゃんの気持ち、考えました? 彼女でも無い女の子にキスを迫られ、拘束され、噛み跡なんて残されたんですよ」
「うぅ」
「自分の欲のためなら好きな人でも傷つけるんですね! あーあ、そんな人に私のお兄ちゃんはあげられな――――――――――痛っ」
あまりに正論すぎて、紅葉が何も言い返せずに涙目になったところで、さすがに奈々の後頭部に軽めの頭突きをしてやめさせる。
正論は正論でも、『彼女でも無い女の子に……』のくだりは奈々も人のこと言えないからね。
普通にキスを迫られるどころかされたし、体の自由を奪われまくったんだけど。
ちなみに、頭突きなのはいまだに手錠を外してもらえていないからだ。そろそろ本当に手首が痛い。
「もう、あと少しで紅葉先輩の心を壊して、順々なペットにできるところだったのに!」
「そんな恐ろしいこと考えてたなら止めて正解だよ。確かにペットにしたら楽しそうだけど」
「
「冗談だよ。順々になったら可愛いだろうなってのは本心だけど」
「べ、別に瑛斗が望むなら……」
「やっぱり今の紅葉が一番かも」
「どっちなのよ!」
意見が右往左往して振り回される彼女だが、何だかんだ満更でもなさそうな顔だ。
それを見て楽しんでいる僕は、きっとお世辞にもいい表情とは言えない顔なんだろうね。
「とにかく、やるなら堂々としてくださいね。私が邪魔できない場所でなんて卑怯です!」
「それも作戦のうちだったのだけど……」
「逆らうならこの丸めた新聞紙でお尻を叩きますよ」
「……わ、わかったわよ。これからは気をつけるわ」
今の紅葉は完全に押し負けている。扉を蹴破るなんて強行突破を見せつけられたのだから、腰が引けてしまってもおかしくはない。
そんな彼女はしゅんとした様子でこちらへ向き直ると、「暴走しちゃってごめんなさい」と頭を下げてくれる。
素直な彼女を褒めてあげたくて手を伸ばそうとするも、僕はまだ手が使えない状況であることを思い出した。
「許してあげるけど、そろそろ手錠外してくれないかな。さすがにキツく締められすぎたみたいで」
「あ、そうよね。忘れてたわ」
そう言いつつ右のポケットの中に手を入れた紅葉は、「あれ?」と首を傾げながら左のポケットにも手を突っ込む。
しかし、出てきた手には何も握られていない。反応から察するに、おそらくそこに鍵を入れていたのだろう。
それがないということはつまり、僕に自由はまだ訪れないということだ。
「……お、おもちゃだもの。簡単に外せる何かがあるわよ」
「ちょっと、紅葉痛い。余計にきつくなってるよ」
「ここをこうすれば……」
「血が止まってる気がするんだけど」
「仕方ないわ。こうなったらドリルを使うのよ!」
「僕の腕ごと突き破るつもり?」
そんなこんなで色々と試したものの開かず、最後の頼みと確認したトイレで、便器の中に落ちている鍵を見た僕が曖昧な顔をしたことは言うまでもない。
「紅葉が取ってよね」
「瑛斗が取りなさいよ」
「取れる状況ならこうはなってないんだけど?」
「……し、仕方ないわね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます