第486話
僕たちが帰宅すると、何故か既に
どうしてここにいるのかと聞いてみると、そろそろ帰ってくる時間だろうと出てきたらしい。それでも30分くらいは立っていたみたいだけれど。
「おかえりなさい、
「おかえり、待ってたわよ」
2人は嬉しそうな顔でこちらへと近付いて来てくれるものの、ふと奈々との距離がやけに近いことに気が付いて足を止めた。
確かに普段からべったりではあったが、今日はいつにも増して引っ付いている。
彼女たちがそう感じていることを悟った奈々は、より一層の体をくっつけながらにんまりと笑った。
「えへへ、晴れてお兄ちゃんと恋人になりました♪」
「「……はぁ?!」」
「嘘だよ、真に受けないで」
「あ、う、嘘なのですね……?」
「何よ、心臓に悪いじゃない!」
僕の言葉にホッと安堵する紅葉と麗華。しかし、奈々の方は納得がいっていないようで、ブンブンと首を横に振って抗議する。
「嘘じゃないもん! だって、お兄ちゃんはキスを許すって言ってくれたし……」
「キスですか?!」
「瑛斗、どういうことなのよ」
「説明してください!」
今度は奈々の言葉に詰め寄ってくる2人。影響されやすいんだね、安心したり、不安がったり。将来詐欺に遭わないか心配だよ。
とにかく、僕は何も悪くない。それを証明するために、温泉で奈々と話したことや彼女の決意、布団の中で襲われたことなどを伝えた。
すると、紅葉と麗華は「何よ、それ」「いつものことですね」と呆れたように首を振る。
「つまり、奈々ちゃんが勝手に暴走してるってだけの話よね?」
「子供を作らないという部分は褒めてあげますが、さすがに私たちと本気で戦うのは無謀ですね」
「くっ……私の本気を見せてあげますから!」
「無理よ、無理」
「その通りです。恋人どころか、キスの先を味わうことすら有り得ませんね」
「そ、そんなこと……」
「奈々ちゃんはどこまで行っても妹のままなの」
「妹の分際で張り合おうなど、100年……いえ、ひと人生早いです。生まれ直してから出直してください」
「ぐぬぬ……」
否定、否定、否定。何を言っても否定されてしまう奈々は悔しそうに下唇を噛み締めると、同時に強く握りしめた拳を掲げる。
しかし、すぐにそれを力なく下ろし、その場に座り込んでしまったかと思えば、突然僕のズボンを引っ張り下ろそうとし始めた。
「ちょっと、奈々……」
「何やってるのよ!」
「ここは外ですよ!」
「先輩たちがそこまで言うなら、妹でもキス以上のことしてやりますよ! してやるぅぅぅぅぅ!」
これが、やけくそになった妹の暴走である。
紅葉が何とか引っ張りあげてくれたおかげでズボンの急速落下は免れ、その隙に麗華は奈々を強引に引き離してくれた。
一瞬、2人がいなかったら手遅れだっただろうと感謝しかけたけれど、よく考えたら2人が刺激したせいだからプラマイゼロだ。
そんなことを思っていると、僕から離された奈々が「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」とこちらへ戻ってこようと麗華の腕の中でもがく。
一応暴走は止まったみたいだし、変なことをしたりはしないだろうと離してもらうと、彼女はよろよろと歩み寄ってきてぎゅっと抱きついた。
「うぅ、お兄ちゃんと離れたくないよ……」
「泣かないで。ちゃんと近くにいるから」
「ぐすっ……ほんと?」
「当たり前でしょ。お兄ちゃんなんだから」
「えへへ、よかった……」
僕の胸に顔を埋め、求めるように強く抱きしめながら「大好き」と呟く奈々。
今回ばかりは作戦だとか嘘泣きなどではなく、本当に涙を流している。妹のそんな表情に胸を痛めない兄がいるだろうか、いや居ない。
さすがに予想していないこの展開には紅葉と麗華も困惑してしまったようで、その後、大慌てで慰め始めたことは言うまでもない。
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