第458話
あれから何をされたかはよく覚えていない。目の前で美味しそうなお肉を食べられたり、耳かきをされたり、脇腹をこちょこちょされたり、とにかくかなり厳しい戦いだった。
それでも無反応を貫き続ける僕を前に、用意していた道具を使い果たしてしまった
「最終兵器って何よ」
「ふふ、
「私には無い……ってまさか?!」
「そのまさかですよ♪」
自信ありげににんまりと笑った彼女は、まるで
そして両手を僕の後頭部に回すと、ちょうど目線の高さぴったりに来た自慢のバストへ顔を押し付けさせた。
「んむっ……」
「ちょ、
「別に危険なことはしていませんよ? 口は塞がないように気を付けていますから」
「そうかもしれないけど……」
確かに呼吸は出来るから窒息することはありえない。ただ、そんな事は関係なしに、普通の男子高校生ならこれで反応するなはもはや拷問だ。
僕が少しばかり反応が薄くて、少しばかり忍耐力があったから良かったものの、紅葉が心配そうに見てくる気持ちもよくわかる。
麗華には気軽にこういうことをしたらダメだって叱っておかないとね。僕以外にこんなことしたら、彼女が危なくなるのは間違いないんだから。
「そっちがその気なら、私にだって考えがあるわ」
「何をしようと構いませんが、今は私のターンですよ?」
「関係ないわ、このままだと負けるんだもの」
そう言いながら麗華を押し退けた紅葉は、真正面に立って少し腰を屈める。
彼女は目線の高さを合わせ、僕の両膝に手を置くと、身を乗り出すようにして顔を寄せた。
ここまで来れば、何をされようとしているのかは嫌でも分かってしまう。
「紅葉、それはダメだよ」
「っ……」
手は使えないので言葉で制止すると共に顔を背けると、紅葉は悲しそうな顔を見せた。
しかし、これは彼女のための行動でもあるのだ。一時の情に流されて許してしまってはいけない。
勝負に勝つためにキスをしようとすることを認めてしまえば、これまで保ってきた色々なものが崩れてしまう気がしたから。
「やっぱりタイミングって大事だと思うんだ」
「……そ、そうね。ちょっとどうかしてたわ」
「本当にしたいって思った時にもう一度チャレンジして欲しい。僕もその時が来たら考えるから」
「ええ、また日を改めて――――――――」
これで紅葉の勝利として丸く収まる。誰もがそう思うような温かい微笑み。しかし、彼女の言葉を遮るように事件は起こった。
いつの間にか背後に回り込んでいた麗華が、僕の首をグイッと自分の方へと向けてキスをしたのだ。
「私はいつでもキスしたいですよ」
「麗華……」
「東條さんには無くて私にあるもの、もうひとつありましたね。ふふ、恒常の愛です♪」
「恒常って変化がないって意味よ? 私は日に日に好きが強くなってるから白銀 麗華より上ね」
「それは失礼、恒常なのはあなたの身長でしたか」
「なっ?! それは今関係ないでしょ!」
「そうでしょうか。あまり身長が低いと、キスする時に
「っ……そ、それは……」
麗華の言葉に顔を青ざめさせた紅葉は、弱々しい声で「そうなの……?」と聞いてくる。
僕としては紅葉の身長が低いことで不便を感じたことは無いし、それが彼女の良さでもあると思っているからね。
そう伝えてあげると、安心したようにため息をついてから「ほら、言いがかりよ!」と反論した。
「……まあ、そこは折れてあげます。ですが、東條さんには今、キスをする勇気がないのでしょう?」
「そ、そんなこと……」
「私にはあるので、遠慮なくさせていただきますね」
麗華はそう言いながら僕の肩に手を置くと、躊躇うことなく唇を重ねてくる。
キスのしやすい位置を確かめ合うような軽いものから、何度も繰り返すうちにより密着性の高いものに変わっていった。
抵抗の出来ない僕は逃げることも拒むことも出来ず、ただただされるがままにされるだけ。
その様子に顔を真っ赤にした紅葉も我慢出来なくなったのか、強引に割り込んでくると強く求めるようなキスをした。
「……タイミング、やっぱり今だったわ」
普段は滅多にない紅葉に見下ろされる体勢なせいか、いつもより少しだけ大人っぽく感じてしまう。
そんな彼女は僕を拘束する手錠を外すと、抵抗するよりも早くベッドに押し倒す。そこに麗華まで加われば、まさに一巻の終わりだった。
「キスだけで我慢してあげるのよ、感謝して」
「どうせなら瑛斗さんも楽しんでくださいね♪」
そんなことを言いながらも、結局ストッパーの外れた2人に服まで脱がされそうになったところで、僕は様子を見に来た
まあ、「助けたお礼に私が襲ってもいいよね♪」と言われ、結果的には紅葉と麗華に助けられることになるのだけれど。
「やっぱりこういうゲームは危険だね」
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