第457話
テストが終わってすぐに訪れた週末。高校生が勉強から開放されるというのは、3日間餌を与えていない猛犬を野に放つのと同じようなものだ。
その猛犬というのが
そして部屋の中央にセットしたイスに座らせると、ワクワクしたような顔で百均で買ってきたらしい手錠を手渡してきたのである。
「えっと、何が始まるの?」
「話せば長くなりますけど聞きます?」
「聞かないと何されるか分からないからね」
「実は―――――――――」
麗華が教えてくれたことによると、昨晩2人は仲のいいことにビデオ通話をしていたらしい。
そこで何か僕も喜ぶような面白い遊びはないかと言う話になり、見つからないなら自分たちで作ってしまおうと本当に作ってきたんだとか。
まだテストプレイをしていないから上手くいくかは分からないものの、是非とも僕に最初のプレイヤーになって欲しい……とのこと。
「別に遊びならいくらでも付き合うけど、手錠が必要なんてちょっと怖いね」
「安心してください、目隠しはしませんから」
「それなら安心とはならないよ」
「何も危険なことをするわけじゃないわ。手錠も
「どういうこと?」
そう聞き返すと、2人は顔を見合わせてニヤニヤしてから、「反射的に手が出たら困るもの」「ええ、色んな意味で手を出すのはダメです」なんて言ってきた。
さっぱり意味が分からないけれど、手際よく後ろ手に手錠を付けられてしまえば抵抗する暇もない。
断るつもりも無かったし、危険でもないというのだから問題は無いはず。自分にそう言い聞かせて大人しく彼女たちを見上げた。
「これから色々なもので瑛斗を刺激するわ」
「刺激?」
「簡単に言えば、くすぐりだとかツンツンって感じですね」
「瑛斗はそれに反応しないことが勝利条件よ」
「なるほど、無視し続ければいいんだね」
「交互に刺激して、先に何かしら反応を見せさせた方の勝ちになります」
要するに、こちらからすれば我慢大会。2人からすればその我慢を崩し合うことになるのだ。
そして彼女たち側は同じ刺激をそれぞれ1度までしか使えないため、成す術が無くなった時に僕の価値が確定する。
それまで心を無にして微動だにしないことが大切なんだね。ぼーっとすることは得意だから、もしかすると勝てるかもしれないよ。
「じゃあ、早速始めていくわね」
「うん、いいよ」
「先攻は私からですね。では、様子見でこういうのはどうでしょう」
麗華はそう言いながら近付いてくると、僕の鎖骨辺りから首にかけてを人差し指でスーッと撫で上げる。
この程度では何も驚いたりくすぐったいと感じたりすることも無いので、危なげなく紅葉のターンに移った。
「こういうのは初めから強い刺激を与えていく方がいいに決まってるわ」
「強い刺激、ですか?」
「ふふ、このために用意してきたんだから」
彼女は部屋の隅に置いていたカバンを開くと、中から洗濯バサミを取り出してこちらへと近付いてくる。
そして全開にした状態で僕の鼻にセットすると、パッと手を離した。
「どうよ、痛いでしょう?」
「……」
「おかしいわね、誰でも痛がるはずなのに」
「……」
紅葉は首を傾げながらも、失敗ということで洗濯バサミを外して下がってくれる。
もちろん僕だって人間だから、今みたいなことをされたらすごく痛い。こういうゲームでなければ、すぐに反応していただろうね。
でも、こんなにもあっさり負けちゃったら、2人のゲームがよく楽しめないまま終わっちゃうし。
せっかく色々と考えてくれたんだと思うと、火事場の馬鹿力じゃないけれど、ギリギリ耐え切れたよ。さすがにもう一回は遠慮したいけど。
「次は何にしましょうか」
「痛いのが効かないなら、別の路線で攻めるしかないわよね」
「そうなると……これですかね」
痛いの以外でお願いしたいなぁ。そんなことを思っていた僕が、麗華が取り出してきた『こより(ティッシュを先端が尖るように細くしたやつ)』を見て少しホッとしたことは言うまでもない。
まあ、出そうになるくしゃみを真顔で我慢し続けるっていうのも、別の今で地獄だったけどね。
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