第456話
テスト週間というのは待つに長し過ぎるに短しとよく言ったもので……いや、言わないけど。
とにかく、あと一週間もあるなんて長く感じていても、始まってしまえばあっという間に最終日を迎えるものなのだ。
そして僕たちも先程テストを終え、ホームルームで初日の二教科分だけを返してもらったところである。
「
「数学のテスト? え、100点?」
「今回は特に頑張ったんです!」
「すごいね、さすが
「もっと褒めてください♪」
僕は子犬のようにはしゃぐ麗華に手招きをすると、隣の席から近付いてきた彼女の頭をわしゃわしゃと撫でてあげる。
「ボサボサになっちゃいますよ」なんて言いながらも楽しそうにしてくれるから、なかなか撫で甲斐があるよ。
ただ、それを遠くから見ていた
「瑛斗、見なさい。私も100点よ」
「すごい、そんなの僕には取れないよ」
「そうでしょう? ほら、褒めても―――――あっ」
『褒めてもいいのよ』。ドヤ顔の紅葉はそう言い終えるよりも先に、背後から忍び寄った麗華にテスト用紙を奪い取られる。
そしてそれをまじまじと覗き込んだ彼女が呟いた一言に、「うっ」と声を漏らして怯んでしまった。
「保健体育じゃないですか。数学に比べるには100点の価値が違い過ぎますよ」
その嘲笑うかのような表情に押し負けてしまいそうになる紅葉だったが、すぐに首をブンブンと振って反論をし始める。
「そう言う
「惜しくも98点です」
「ふっ、100点取れてないじゃない」
「保健体育は1問2点です。たった1問の差で今後の人生にどんな影響があると言うのですか?」
「それは……無いかもしれないけど……」
「その点、数学は1問5点以上。それに出来たか出来ないかが判断される教科です。こちらの満点の方が自慢できるではありませんか」
「ぐぬぬ……」
さすがの紅葉もこれには対抗出来ないらしく、「それに……むっつりさんですね♪」と囁きながらの微笑みでノックアウト。
珍しく明らかな軍杯が麗華側に上がった瞬間を眺めていた僕は、ふと教室の前を通るイヴを見つけた。
「イヴ、今から帰り?」
「……」コク
「一緒に帰ろうよ」
「……♪」
無表情ながらどこか喜んでくれていることが分かる顔で近付いてきてくれる彼女。
しかし、たった今戦争が終わったばかりの2人は、何も知らないイヴに襲いかかって巻き込んでしまった。
「イヴちゃんのテストを見せなさい!」
「何点なのか見てあげます!」
「……」コク
ただ、以外にもあっさりと渡してくれたカバンから出てきたのは、右上に100と書かれた紙が2つ。
2教科合わせて1問ミスの麗華さえ超えた、正真正銘のダブル満点だったのである。
僕がふと不思議に思って「あれ、イヴって勉強のステータスそんな高くないよね?」と聞くと、彼女は人差し指で何かが右から左へ、左から右へと移動するジェスチャーを見せてくれた。
うっかり忘れちゃいそうになるけれど、イヴの勉強のステータスは本当はノエルのステータスなんだもんね。それなら納得できるよ。
「イヴちゃんに……負けました……」
「まあまあ、上には上がいるのよ」
「そうですね。少なくとも
「あなたねぇ……人が優しく励ましてあげてるってのに酷すぎるわよ!」
「酷いのは数学の点数では?」
「87点は別に酷くないから!」
なんだかんだで落ち込んでいた麗華が元気になってくれた後、紅葉の点数を見て笑う彼女に僕のを見せてあげたら、何故かしゅんと大人しくなっちゃったよ。
「紅葉ので笑えるなら、僕のは爆笑間違いなしだね」
「いや、その……何と言うか、ごめんなさい」
さすがに70点台の前では、笑いを通り過ぎて沈黙が正解になっちゃったみたいだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます