第455話
その内容はどちらも『
今のところ特に予定も入っていないし、最近は奈々に甘えさせてあげられる時間が取れていなかったから、『前向きに考えるよ』と返信しておいた。
そして今は、奈々の部屋でそのことについて話している。予定が空いていても行けるかどうかは、行先に泊まれるところの有無にもよるからね。
「というか、旅行に行きたいなら直接言ってくれればいいのに」
「私だって言いたかったけど、お兄ちゃん忙しそうだったし……」
「そうかな。あんまり忙しくないと思うけど」
「じゃあ、忙しくないのに妹を放置してたってことですかー?」
「……ごめんごめん。忙しかったは忙しかったよ、でも言ってくれたら奈々を優先する」
「ほんと?」
「僕だって一緒に過ごしたいって言ってくれて嬉しいんだもん」
僕の言葉に奈々は嬉しそうに笑うと、甘えるようにぎゅっと抱きついてくる。
彼女の頭を優しく撫でてあげれば、もっとしてと言わんばかりに腕の力を強めた。
そんな姿を見てしまえば、兄として期待は裏切れない。少しくらいお小遣いを奮発してでも、思い出に残るような場所に連れて行ってあげたいと思ってしまう。
「ちなみに、ここに行きたいみたいなのはあるの?」
「うん! お兄ちゃんの手間にならないように、ちゃんと調べてメモしておいたんだ!」
「それは助かるね。見せてもらってもいい?」
「どうぞ♪」
奈々が差し出してくれたメモ用紙を受け取った僕は、3つの候補を順番に確認していく。
へえ、ここは意外と近場にあるし、宿泊時の施設なんかも充実してるらしい。
こっちは1時間500円となかなかお手頃価格で泊まれるみたい――――――――――って。
「あの、奈々さん?」
「お兄ちゃんが泊まりたいところあった?」
「まあ、無かったと言えば嘘になるけど……」
「どこどこ? どうせ行くならお兄ちゃんが決めたところがいいの!」
「奈々の気持ちはもちろん嬉しいよ。嬉しいんだけどさ―――――――――全部ラブホテルだよね?」
そう、3つある候補の中に一つだけ紛れ込ませるなんて卑怯な真似ではない。
3つ全部がピンクのホテル。兄妹どころか高校生が泊まることすら許されてはいけない場所を、我が妹は満面の笑みでおすすめしてきたのだ。
「だって、人生で一度は行ってみたいんだもん!」
「その一度は絶対に今じゃないよ」
「今しかないの! お兄ちゃんに彼女が出来たら、妹でもこういうこと許されなくなっちゃうし……」
「慰めてあげたい気持ちは山々だけど、彼女が出来なくても妹とラブホテルは許されないからね?」
「……けち」
「そういう問題じゃないんだけどなぁ」
とりあえず、例え2人でそういう場所に行くことになっても、僕は手を出さないし何も起こらないと伝えた上で、今回は丁重に却下させてもらった。
せっかく旅行に行くのだから、僕としてももう少し旅行らしいところに行きたいのだ。泊まりで行く価値のあるような場所にね。
「じゃあ、カラオケで徹夜とか?」
「それは旅行じゃないよ。そもそも、どうして近場のことばかり言うの?」
「……だってお兄ちゃん、あんまりお金使わない方がいいでしょ?」
「どうして?」
「冬休みも紅葉先輩たちと遊びに行くだろうし、妹のせいで金欠になったらかっこ悪いもん」
「奈々、そんな事言わないでよ」
「私だってお兄ちゃんの一番になりたいけど、血の繋がりのない先輩たちには勝てないの。迷惑かけないようにして、少しでも長くそばに置いて貰えるように頑張るしかないから――――――――」
全部言い終える前に涙を零した奈々は、堪えきれなかった
けれど、自分がどれだけ妹に我慢させていたのかを思い知った僕には、その続きを聞かなくても言うべき言葉が分かる。
「妹のためになる金欠は、カッコ悪くなんかないよ。むしろ僕からすれば誇れる」
「……何それ、変なの」
「変なお兄ちゃんでごめんね。でも、奈々のことが大好きだから、奈々が喜んでくれるなら一文無しにでもなるよ」
「……えへへ、そしたら私が養ってあげないとね」
「それはちょっとかっこ悪いかも」
「大丈夫、かっこ悪くても大好きだから」
そう囁きながら抱きついてくる奈々を、僕が先程のハグとは少し違った気持ちで抱き締め返したことは言うまでもない。
「奈々、温泉行こっか」
「え? でも、先輩たちが……」
「みんなと行くのはまた別の場所にしよう。奈々が一番行きたい場所に二人で行きたいからさ」
「ふふ♪ ありがとう、お兄ちゃん」
「こちらこそ、いつもありがとう」
その日はどんな温泉に行きたいかを話しながら、いつの間にか寝落ちてしまっていたことを記しておこうと思う。
今日改めて感じたのは僕が奈々を大好きで仕方が無いということで、兄離れさせるのと同じくらい妹離れは厳しいだろうね。
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