第453話

 翌日、家に迎えに来てくれたら紅葉くれはも、教室で挨拶をした麗華れいかも、すごく寝不足と言った顔をしていた。

 ちなみに、昨日は2人とも家に帰っておらず、萌乃花ものかの家に泊まったらしい。

 もちろん目的はパジャマパーティーなんて平和なものではなく、麗華風に言うところの『お仕置き』なのだけれど。


「萌乃花さん、瑛斗えいとさんのデバイスで呼び出したらすぐに来ました」

「やっぱりあの子もその気があったのよ。瑛斗、気をつけた方がいいわ」

「そんなことないと思うんだけどなぁ」


 僕から見える萌乃花は、トラブルメーカーだけど心優しい女の子といった感じで、少なくとも友人以上の気持ちを感じたことは無い。

 いや、もし胸を押し当てられた時の何とも言えない感覚が友人の域を超えているというのなら、それだけは例外になるのだけれど。

 とにかく、萌乃花は2人が言うような悪女ではないことは確かだね。どちらかと言うと、悪女に虐げられる側って感じだもん。

 ……この場合の悪女は、紅葉たちになるのかな。どんな仕返しが来るかわからないから、絶対に口には出せないけど。


「それにしても、萌乃花さんって忍耐強いんですね。いくらお仕置きしても『瑛斗さんは友達です!』としか言いませんでしたし」

「本当にそう思ってるからじゃないの?」

「そうだとしても、あれだけのことをされたら楽になりたくて嘘を言うわよ」

「一体どれだけのことをしたんだろ」

「……それ、聞きたいですか?」

「ううん、やめとく」


 どこか興奮したような表情で舌なめずりをする麗華と、萌乃花へと敵意は見せながらも苦笑いをする紅葉。

 様子を見る限り、主にお仕置きをしたのは麗華の方らしい。紅葉の言葉には躊躇いが垣間見える辺り、むしろストッパーになっていたのだろう。

 やっぱり怒らせると怖い人は怒らせないに限るね。僕も気をつけないと、いつか地下牢に監禁されちゃうかもしれないし。


「そうだ、そろそろ期末テストだけどちゃんと勉強してる?」

「もちろん、抜かりはないわ」

「せっかくの冬休みを補習で浪費するわけにはいきませんからね」

「2人が大丈夫そうなら、僕は奈々ななの勉強を見ることに……」

「あ、突然分からないところがあったような気がしてきたわ」

「私もです。これは瑛斗さんと一緒に勉強するしかなさそうですね」

「そう? じゃあ、4人で―――――――――――」


『集まってしよう』。そう言いかけたところで、何やら廊下の方からドタドタという足音が聞こえてきた。

 その音の主……もといノエルはA組の教室に入ってくると一直線に僕の方へと突っ込んできて、今にも涙が溢れそうな瞳で見つめてくる。そして。


「瑛斗くん、宿題……手伝って……」

「あ、ごめん。すっかり忘れてた」

「何でもするから!」

「別に見返りとかいらないよ」


 結局、紅葉たちとの勉強会は延期して、ノエルの宿題を片付けるお手伝いをすることになるのであった。

 これには彼女の忙しさを知っている2人も文句は言えなかったようで、「なるべく早く終わらせなさいよ」「待ってますからね」と諦めてくれる。

 今回は遅れて教室にやってきたイヴも手伝ってくれるみたいだし、そう時間はかからないだろうね。


「ちなみに、どれくらい残ってるの?」

「……全部」

「ほんの少しもやる時間なかったの?」

「ひ、暇が出来ると考えちゃうの。ダンスのこととか、次の仕事のこととか……」

「なるほど」

「あと、瑛斗くんのことも」

「……それは僕も悪いね」

「お願い、見捨てないで……」

「見捨てるわけないでしょ。手伝うって約束したんだから」

「ほんと?」

「むしろのえるたそのファンとして、宿題をやる権利を譲るわけにはいかない」

「……えへへ、頼りにしてるね♪」

「任せて」


 それから放課後に家に行く約束を取りつけると、ノエルはイヴに頭を撫でられながら安心したように戻ってくれた。

 これは関係の無い話だけれど、その後に偶然教室の前を通り掛かった萌乃花の首に、何か帯状のものを巻き付けたような跡があったんだよね。

 お尻もやたら押さえていたし、麗華がしたお仕置きっていうのはもしかして――――――――。


「いや、これ以上は考えないようにしとこう。背後にすごい視線を感じるし」


 それからしばらくの間、僕が麗華の目を見れなくなったことは言うまでもない。

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