第446話
カナと別れた後、僕は準備があるからと先に駆け足でグラウンドへ戻った
別行動と言ってもゆっくり歩いて戻ればいいだけで、先輩が言うにはこれもテストの一環らしい。
一人で廊下を歩いてこそ分かる欠陥があるかもしれないとのこと。今のところ見つかってはいないけれど……。
「ん?」
その代わり、僕は廊下の向こうから歩いてくる十数人の集団を見つけた。ただ、その中心にいるのはこの学校の生徒ではない。
どうして彼がここにいるのかは分からないけれど、集団に彼以外男が居ないところを見るに、とにかく女子からの人気がすごいということは伝わってきた。
何はともあれ、知り合いに顔を見られる訳にはいかない。そう思った僕が咄嗟に壁の方を向いて髪を治しているフリをしていると、突然トントンと肩を叩かれる。もちろん相手は天翔だ。
「やあ、可愛いレディ。ボクのために美しく見せようなんてしなくていいよ、輝きすぎて見えなくなっちゃうからさ♪」
「……そうですか」
「おや? 顔を見せてくれないのかい?」
「憧れの天翔に私の顔なんて見せられないわ(棒)」
「そんな悲しいこと言わないでおくれよ」
「嫌ったら嫌なの(棒)」
「うーん、そこまで言うなら仕方ないね。その代わりに職員室の場所を教えてくれるかな?」
それくらいならいいだろうと僕が指で「あっち」と示した直後、天翔はあろうことかその腕を掴んで強引に引き寄せてくる。
そのせいで顔を正面から見られることになり、「ほら、とても美し……」と出て来かけた言葉を止めた。
思いっきり目が合っている。これはさすがにバレてしまったかと諦めかけた瞬間、予想もしていなかった言葉が飛んできた。
「可愛いじゃないか!」
「……へ?」
「隠すなんて勿体ないよ。いや、ボクがそんなこと決めていいとは思ってないけど、君はもっと胸を張っていいはずだから!」
「そ、それはどうも……」
どうやら天翔はアホらしい。知人の顔を見ても女の子だと信じ続けるなんて、女の子に囲まれすぎておかしくなったに決まっている。
僕がやれやれと心の中でため息をついていると、彼は「是非とも君に学校を案内してもらいたい!」と手を握ってきた。
「えっと、今急いでるから無理かもしれない」
「ボクよりも優先すべきことなのかい?」
そう聞いてくる天翔の瞳は捨てられた子犬のようにうるうるとしていて、こんな顔も出来るのかと認識した瞬間断るのが可哀想に思え始める。
「わかった、少しだけね」
「やった、ありがとう!」
他の女子たちには白い目で見られてしまったけれど、そんなことは気にしない。
さっさと職員室まで案内して、先生に対応を押し付けて逃げれば万事解決。そうすれば、今後二度と
脳内で何度も作戦をシュミレーションしながら廊下を歩いていると、イケメンの隣を歩いているせいかやけに人の視線が向けられていることに気が付いた。
ぼっちの特性として目立つことは嫌いなので、女装バレの心配も相まって尚更顔が下を向いてしまう。
そんな僕が職員室までの道を曲がり忘れたことに気付いた、ほんの一瞬の心の隙を見せた瞬間だった。
「……え?」
気が付けば誰もいない教室の中へと引っ張り込まれていて、イスに座った状態で押さえつけられているではないか。
いつもヘラヘラしている割には強い力で身動きを封じてくる天翔は、「ほんと、びっくりするくらい可愛くなるんだね」なんて言いながら顔を近付けてくる。そして。
「
いかにも悪巧みしてますよと言わんばかりの悪人顔で、はっきりと僕の名前を呼んだのだった。
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