第438話
「……美味いな、これ」
数分後、チーズケーキを完食した
撫でられなくなった
「落ち着いて考えてみれば、
「僕の目にもそう映りました。むしろ、お菓子を上げた時の方が喜んでたくらいです」
「はは、あいつらしいな。……私は私らしくなかったみたいだが」
今日一日の自分の行いを振り返ってみたのか、しゅんとしてしまう会長。
そんな彼女の背中を押してあげようと、僕は「今も心配してくれてると思いますよ」と浜田先輩のことを伝えた。
「……そうだろうな。
「分かってるはずです」
「自分の中の答えを信じていいんだな?」
「失敗したらビンタでも何でも受けてあげますよ」
僕の言葉にクスリと笑った会長は椅子から立ち上がると、「可愛い後輩は傷つけられないな」と呟きながら出口へと向かって進む。
そして扉を半分ほど開いたところでこちらを振り返ると、「寧々子、残りの作業は任せた」と飛び出して行った。
後に残ったのはしばらくの沈黙と、頬張っていたチーズケーキを飲み込んでから遅れて零れた「……え?」の声だけ。
「じゃあ、僕も次があるので」
「待ちなさい。一人で全部終わらせろって言うの?」
「大好きな会長からの頼みじゃないですか」
「あの資料を全部並べ直すのよ。終わらなくて幻滅されちゃうわよ!」
そう叫びながら頭を抱える彼女が指差した先にあるのは、確かに数時間はかかりそうな紙の山。
家に帰るのが遅くなることを心配するのではなく、会長からの期待に応えられないかもというのが先に来るあたり、本当に大好きなんだろうね。
「じゃあ、手伝うのには条件があります」
「……まさか変なことじゃないでしょうね」
「大丈夫ですよ。その猫耳みたいな髪を触ってみたくて」
「何よ、そんなこと?」
「でも、会長には内緒でお願いしますね。触ったと知られたら怒られちゃうので」
「どうして私の髪なのに
「好きみたいですよ、その髪型」
「……んふふ、ちゃんと秘密にしてあげるわ♪」
かなりご機嫌になった寧々子さんが気前よく頭を撫でさせてくれたおかげで、猫髪の秘密も詳しく知ることが出来た。
本来はツインテールになる髪を、頭の高い位置で2つのお団子状にまとめてるんだね。普通のお団子じゃなくて円錐形にするのは至難の業らしい。
「どうよ、満足?」
「もう少しだけお願いします」
「ふぁ……そこは首だから……んにゃ……」
「弱いんですか?」
「だ、黙りなさい! あなたなんかに撫でられても、全く嬉しがったりしないんだから」
「分かってますよ。でも、首を撫でられたがってるって、僕からそれとなく会長に伝えることも出来ますよ」
「ほ、本当……?」
「会長なら面白がってしてくれるでしょうね」
「……いいわ、好きなだけ触りなさい!」
「やった」
こうしてふわふわの猫髪を満喫しているうちに時間が過ぎ、作業を始めたのは1時間ほどが経ってからになるのだった。
「お、終わるかしら……」
「学校に泊まることになるかもですね」
「それはお断りよ! 一人ならまだしも、男と一緒になんて……」
「安心してください。髪に興味はあっても、それ以外には興味無いですから」
「……それはそれで納得いかないわね」
結局、全て終わって帰ろうと言う時には、もう一人お土産を渡そうと思っていた人物は、当たり前だけれど既に帰ってしまっていて……。
仕方ないから明日渡すことにしよう。そう心の中で呟きつつ、「必要ないわ」と拒む寧々子さんを強引に駅まで送ってあげるのであった。
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