第436話
修学旅行で4日間、代休と休日で2日間休みがあり、火曜日にほぼ一週間ぶりの授業だったせいか、正直あまり集中出来なかった。
それは
「寝たいなら膝貸してあげようか?」
「一人しか使えないじゃない。嬉しいけど、今は争う元気はないわよ」
「同感です。普段なら取り合いたいところですが、今はコンクリートの上でも満足ですね」
「へえ、珍しい」
そんな会話をしたほどだから、2人がどれだけ眠かったのかは伝わると思う。
彼女たちは僕が放課後に用事があるからと伝えると、仕方ないという風に頷いてよろよろと帰って行った。
あんな状態で家に辿り着けるのかは不安だけれど、これから行くところがあるこだから信じるしかない。
そう自分を納得させて真っ先に向かったのは、放課後は料理部が使用している調理室だ。もちろん、ここでの目的はあの人しかいない。
「失礼します、
扉を開けて近くの人に聞こうとするが、浜田先輩の居場所は言葉が終わるよりも先に見つかった。
どうやらイケメンで料理の才能がある彼には、女子の知り合いが多いらしい。その証拠に、お土産を渡す先客が大勢来ている。
僕はお土産集団のほとぼりが冷めるまで調理室の隅っこの椅子に座りながら時間を潰した後、頃合いを見て浜田先輩に声を掛けた。
「あの、お久しぶりです」
「
「気付いてくれてたんですね」
「そろそろ来るんじゃないかと思ってたんだ」
「と言うと?」
「一応面識はあるわけだし、な? お土産をくれるんじゃないか……なんて……」
まるで『違ったらどうしよう』と言いたげな目で見つめてくる先輩に、僕は思わず頬が緩んでしまう。
そんなに心配しなくても、ちゃんとお土産は右手に提げられた紙袋の中にあると言うのに。
「浜田先輩にはハロウィンの時にお世話になりましたから。面識がある程度だとは思っていませんよ」
「本当か?!」
「お土産もありますよ」
「よっしゃ!」
ここまで喜んでもらえると、こちらも渡し甲斐があるというもの。何だか女の子から貰っていた時より嬉しそうにも見えるけど。
「こっちがお土産です。あと、以前約束してたお菓子の件は覚えてます?」
「レシピ考案の代わりに、文化祭で作ったお菓子を食べさせて欲しいってやつか?」
「そうです。今日はそれも一緒に持ってきました」
「おお! 悪いな、休みの日に作らせちゃって」
「楽しかったので気にしないで下さい」
浜田先輩は普段からニコニコしている顔をもっとキラキラさせると、「家でゆっくり食べるよ」とひとまず冷蔵庫に入れておいてくれた。
それから僕のところに戻ってくると、何かを思い出したかのように「そうだ!」と小走りでオーブンに駆け寄る。
開かれた扉の中から見えたのは、まさについさっき焼きあがったのであろう1人前サイズのチーズケーキ。
先輩はそれを3つ小さめの箱に入れて僕が持っていた紙袋へ入れてくれた。
「ひとつはお土産のお礼だ!」
「あとの2つは?」
「狭間、これから
「そうですけど、よく分かりましたね」
「お土産がまだ残ってるからな。時間的に先に渡してきたとも考えづらい」
「さすがの考察力」
「褒めてもお菓子くらいしか出ないぞ?」
「それで十分です」
残りの2つのチーズケーキは、
浜田先輩によると、今日の昼頃から会長がカリカリしているらしい。やけに自分に対して素っ気ないんだとか。
「チーズケーキ好きだからな。きっと機嫌を治してくれるだろ!」
「理由に心当たりはないんですか?」
「あまりに突然だったからな……」
「じゃあ、僕からそれとなく聞いてみますね」
「それは助かる!」
そんなこんなで、僕は浜田先輩からチーズケーキと期待を引き受け、生徒会室へ向けて歩き出すのだった。
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