第430話

 とりあえず、勉強は一旦休憩ということにして、僕は会ったついでに最後にしようと思っていたお姉さんにもお土産を渡すことにした。

 特別なものだとかそういう訳では無いけれど、紅葉と一緒に行動するなら最後に回した方が効率がいいと思ったからだ。

 まあ、会ったのに渡さないというのもおかしな話だろうからね。……いや、別にお菓子に掛けたわけじゃないよ。


瑛斗えいと君のお土産、すごく美味しいわ」

「私のために持ってきてくれた方だけどな」

「まあまあ、一緒に食べた方が美味しいじゃない♪」

「お前はチョコに菓子にって食べ過ぎなんだよ」


 相変わらずこの先生と生徒コンビは仲がよろしくないらしい。以前よりかは少しマシになってはいるみたいだけれど。

 それはともかく、紗枝さえへのお土産のメインはお菓子詰め合わせでは無い。僕はもうひとつのお土産を取り出すと、机の上にそっと置いて見せた。

 彼女のお父さんはゲームを作る会社の社長で、紗枝自身も様々な大会で優勝するほどゲームが好きで得意だ。

 そんな彼女なら、近場では買えないような変わったカードゲームを気に入ってくれるのではないか。

 お店にこれが置いてあるのを見た時から、ずっとそう期待していたのである。


「これ、もうひとつお土産」

「アタイに? 『OKINAWA』か、初めて耳にするゲームタイトルだな」

「普通のカードゲームと同じルールだけど、モンスターの代わりに沖縄で有名なものなんかが描かれてるみたい」

「へえ、ジンベエザメとかイルカみたいな生き物だけじゃなくて、海ぶどうとかゴーヤもあるんだな」


 モンスターそれぞれに特性があったり、ちょっとした豆知識が書かれていたり、はたまた合成して料理にしたら強くなったり。

 なかなか面白い要素がたくさんあると、紗枝はかなり気に入ってくれた様子だった。これの大会が存在しないことが残念だって言ってたくらいだよ。


「今日はまだ勉強があるから無理だけど、また今度先生とゲームがしたいんだ」

「じゃあ、次は『OKINAWA』で勝負しようか」

「せっかく貰ったからな。今度こそはかっこよく勝ってやるよ」

「望むところだね。僕もネットで調べて戦い方を研究しておくよ」

「そうと決まれば明日から猛練習だな」


 そう言って軽く火花を散らしたところで、紗枝の休憩時間が終わった。

 もうしばらくはくつろいでいてくれてもいいと言ってくれたけれど、勉強してる人がいるのにダラダラするのも気が引ける。

 それに、まだもう一箇所行くところがあるからね。僕はまた今度遊びに来ると伝えて、紅葉くれはと一緒に帰らせてもらうことにした。


「次が最後だよ」

「意外と少なかったわね」

「残りは学校で渡せるから。でも、そう言う紅葉は信介しんすけさんにしか渡してなかったよね」

「う、うるさいわね! 仕方ないでしょ、学校外にお土産を渡すような相手が居ないんだもの……」

「ちなみに、奈々ななにはもう渡した?」

「……まだよ。朝は色々あったから、つい渡しそびれちゃって」

「じゃあ、僕の分が終わったら渡そっか。あんな感じだけど、きっと喜ぶと思うよ」

「そうだといいわね」


 エレベーターの中、僕たちはそんな会話をしているうちに1階まで降りてくる。

 そして見送ってくれるコンシェルジュさんに会釈をし、内側からは自動で開く扉を抜けて駅へと向かったのであった。

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「最後の目的地ってここなの?」

「そうだよ」

「すごく見知った人の家よね。一体誰に渡すって言うのよ」

「いいから見ててよ」


 眉を八の字にしながら首を傾げる紅葉はさておき、現在地はノエルとイヴの自宅前。

 もちろん修学旅行に行っていた彼女たちに渡してしまうと、お土産の何たるかを理解できなくなってしまうから、ここに来た目的はそうではない。

 ノエルと繋がりのある人物で、僕自身も一応はお互いに顔見知りではある相手と言えば分かるだろうか。

 お土産を渡すほどの関係値ではない気もするけれど、ノエルが普段からお世話になっているのだから、僕も気持ち程度のものは渡すべきだと思ったのだ。


夏川なつかわ みどり、知ってるでしょ?   WASSup調子はどう?のメンバーなんだけど」

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