第415話

 2つ目の遊具を遊び終われば、今度は後にしようと取っておいた面白そうな場所へ移動する。

 時間的に次が最後になるだろうということで、これをトリにしようとみんなで決めていたのだけれど、運のいいことに今遊んでいるグループの後に並んでいる人はいないらしかった。


「水風船を投げ合うゲームなのね」

「サバイバルゲームみたいですね」


 紅葉くれは麗華れいかの言う通り、このゲームはチームに別れて水風船を敵にぶつけ合うゲームである。

 参加者はそれぞれ5つの水風船と3ライフを所持してバトルエリアに踏み込み、障害物に隠れながら敵に近付いて敵に水風船をぶつけるという流れだ。

 その際、水着に取り付けたプレートに内蔵されたカメラが水風船が当たったかどうかを判定し、ヒットとなればそこに表示されたライフ数が減っていく。

 ゼロになった参加者は両手を上げて降伏し、敗北者エリアへと移動して観戦。最後までライフを残したプレイヤーのチームが勝者となる。


『水風船が無くなった場合、エリア内の2箇所にある補充場所で新たに手にいることができます』


 アナウンスから新たな情報を得つつ、僕たちは4チーム、つまり全員が敵同士として参加することにして別々の入口の前にスタンバイする。

 そして、腰に巻いた専用のベルトに水風船をセットし終えれば、カウントダウンがゼロを告げると同時に扉を開けて中へと入った。


「おっと。紅葉、不意打ちは酷いよ」

「外したわね。当てれると思ったのに」


 赤色の水風船をギリギリのところで避けた僕は、チラッと自分のベルトに着けたプレートを確認してみる。うん、ちゃんと外れた判定になってるね。

 ちなみに補足しておくと、プレイヤーはチーム別で別の色の水風船を使用している。紅葉が赤、僕は青、麗華が白で萌乃花がピンクだ。

 ちょうど居場所がお互いにわかっているから、出来ればここで紅葉に1つ当てておきたいけれど、声を聞かれたことで他の2人に狙われる危険がある。

 そう判断した僕たちは目線で会話をすると、その場で争うことはせずに別々の方向へ移動を開始した。


(この方向は確か、麗華の入口があったはず)


 開始から時間は経っておらず、紅葉が投げた水風船以外にそれらしい音は聞こえてない。

 そこから推測するに、麗華と萌乃花はそれほど多く移動していないはずだ。

 つまり、彼女たちはじっと敵が現れるのを待っている可能性がある。背中に気をつけなければ。

 そう思った矢先、微かにピチャリという音が聞こえて僕は慌てて振り返る。微かに障害物に隠れる影が見えたような気がしたんだけど……。


 ピチャリ


 また聞こえた。移動した時に水溜まりを踏んだか何かなのだろうが、周りに障害物が多いせいでどこから聞こえているのか特定がしづらい。

 それでも敵がこちらの周囲を移動しながら機会を伺っていることは間違いない。

 僕はその場で動かないという作戦に決めると、目では捉えにくい相手を探るために鼓膜へ意識を集中させた。


 ……ペチ……ピチャリ


 濡れた手のひらで壁に触れた音が聞こえてくる。障害物の表面は少しざらっとしていたはずだから、こんな音は鳴らない。

 そうなると、障害物の壁ではなく、エリアを囲っているツルツルの壁に触れたことになる。つまり、敵がいるのは自分から見て左側だ。

 この情報が得られただけで、次の足音からどこまで移動できているかを推測しやすくなる。後はその方向を注視して姿を見せた瞬間に―――――――。


「そこだ!」


 微かに聞こえた水音を頼りに視線を移動させ、チラッと見えた肩目掛けて水風船を投げつける。

 予想よりも早かったのだろう。相手……麗華は反応出来ずに攻撃を受けてしまい、胸元のプレートの数字がマイナス1された。


「っ……1枚上手でしたね」

「考える猶予があったおかげかな」

「次は当てますから」

「望むところだよ」


 その短い会話だけをして、お互いにササッと姿を隠す。まだまだ全員ライフが残っている、これはガツガツ狙って行った方が面白いかもしれないね。

 僕は心の中でそう呟くと、足音に注意しながら誰か隠れていそうな場所へと動き出したのだった。

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