第410話

 しばらく25mプールで遊んだ後。


「スライダーがしたいです!」


 そんな萌乃花ものかの言葉に、紅葉くれは麗華れいかは同意した。

 瑛斗えいとも乗ろうかと思ったが、やっぱりやめて麗華が持ってきていたデバイスを貸してくれるように頼む。


「何をするんです?」

「みんなが滑ってくるのを撮ろうと思って」

「いいのですか?」

「うん。僕はみんなが楽しそうにしてたらすごく楽しいから」


 そういうわけで、女性陣3人だけにスライダーに乗ってもらい、彼は下でカメラを構えて待っていることになったのだが―――――――――。


「良かったですね、東條さん」

「……何がよ」

「2人で滑れば、身長関係なく大きい方に乗れるということですよ」

「別に私は白銀しろかね 麗華れいかと滑りたくなんて……」

「それでしたら、おひとりで小さい方に行くことになりますが?」

「…………」

「イヤ、なんですよね?」

「……言わせないで」

「ふふ、大丈夫ですよ。瑛斗さんは大きい方しか見ていないようですし、写真に写ってもらうためにも一人にはさせられませんから」


 それが麗華なりの優しさなのかは分からないが、紅葉が心の中でホッとしたことは言うまでもない。

 ただ、この場合萌乃花が一人で滑ることになってしまうのだが、そこは本人もあまり気にしている様子はなかった。


「そう言えば、萌乃花ちゃんってS級なのよね?」

「はい! 不束者ですが!」

「……それ、意味合ってるの?」

「分からないです!」


 見ての通り萌乃花は顔は可愛い。そしてスタイルもかなりいい。ただ、頭がどうも悪い上に不器用だ。

 ただ、それが『反魅力』というステータスになったことで、S級というランクを手に入れたのだが、そうなるとひとつ気になることがある。


「S級なら、ゲームのことは知っていますよね?」

「何のゲームです?」

「学園長が開催したS級だけのゲームですよ」

「……?」


 おかしい、S級なら5月頃にメールが届いているはず。紅葉と麗華は首を傾げながら顔を見合わせると、より詳しく探りを入れてみることにした。


「瑛斗さんを落とせばSS級になれる。そういうルールのゲームなんですけど」

「デバイスにメールが届いたはずよ」




「紅葉ちゃんたちが先でいいですよ! 私は後から滑ります♪」

「そう? じゃあ、遠慮なく行かせてもらうわね」


 元気に手を振りながら見送ってくれる彼女に背中を向け、2人は2連ドーナツ型の浮き輪の穴にお尻を沈める。

 ドキドキ半分、ワクワク半分と言った面持ちのまま、ゴール地点で係の人が旗をあげると同時に、背後にいた別の係の人に押されて滑り出した。

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 2人がゴールした時には、紅葉の方は既にぐったりとしていた。外から見た時には大丈夫だと思ったが、意外にもかなり怖かったのだ。


「お疲れ様」

「ほ、本当に疲れたわよ……」

「ちゃんと写真は取れたよ。すごい顔にはなってるけど」

「……永久に封印しといて」


 彼女の言葉に仕方なく首を縦に振った瑛斗は、削除するフリをしてこっそりお気に入りフォルダに入れておいた。

 ついでに自分のデバイスにも送っておこう。何か悪気があるとかではなく、普通にいい思い出として残しておきたいから。


「それより、そろそろ萌乃花ちゃんが出てくる頃じゃない?」

「ああ、構えておかないと」


 そう呟いてカメラを構えると、スライダーのパイプから楽しそうな声が聞こえてくる。そして数秒後にはザバンと水飛沫が上がった。

 僕は画面から指を離してようやく写真ではなく動画になってしまっていたことに気がつくと、そこからいいワンシーンを切り取ろうとスロー再生しようとして―――――――――。


「瑛斗さん?!」


 ものすごい勢いで麗華にデバイスをひったくられてしまう。一体何事かと顔を上げてみれば、水面から顔だけを出している萌乃花が見えた。

 そして、その横には彼女が身につけていたのと似た柄の……いや、全く同じというか同一の水着が浮かんでいる。

 ああ、そういうことか。今脱げてしまっているということは、動画や写真に行けないものが映ってしまっている可能性があるわけで……。


「サイズが合わないことすら、不幸の始まりだったのか……」


 大慌てで水着を付け直す萌乃花から、そっと視線を逸らしたのであった。

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