第406話
あれからしばらくしてバスは出発し、心地よい揺れに身を任せてウトウトしているうちにホテルに到着していた。
そう言えば、初日以降お掃除ロボットを見かけていない。暴走されては困るから出くわさないならそれでいいけれど、もしかして廃止されたのかな。
「残りの時間はホテル内で好きに過ごしていてください。もちろん、異性の階への移動はダメですよ〜」
ほとんどの人が先生の言葉を聞き流しつつ、これから夕食までそれなりにある自由時間をどうするのかを友人たちと話し合っていた。
僕は部屋でゴロゴロでもしていようかと思ったけれど、
何かと首を傾げているとポケットの中のデバイスが震えた。確認してみると、僕たち3人のグループへのメッセージだった。
『荷物を置いたらここに集合よ』
『なるはやでお願いしますね!』
一体何をするのかは分からないけれど、2人がそう言うのなら付き合っておこう。
僕は心の中でそう呟くと、『わかった』とだけ返信してバケツくんと一緒に自室まで戻るのだった。
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「1階に集合? そんなのプールに決まってるだろ」
部屋に戻ってすぐにバケツくんに紅葉たちとのことを話すと、当たり前だと言わんばかりの表情でそう返された。
そう言えば、このホテルの1階にプールがあるんだっけ。使うことなんてないと思ってたから忘れてたよ。
「というか、さっきバスの中で使用権の取り合いしてたじゃねぇか。各クラスチケット2枚までだからって」
「そうなの? ほぼ寝てたから知らなかった」
「まあ、うちの学校はランク主義だからな。結局、S級の2人がかっさらってっちまった」
「それで紅葉たちはウキウキしてたんだね。でも、2枚までなら僕は無理なんじゃない?」
「ペアチケットなんだよ。あいつらのどっちかがお前と一緒のチケットで入れる」
なるほど、ぼっちにはなかなか厳しいシステムだね。1年前の僕なら『ペア』なんて聞くのも嫌だったかもしれないし。
「それならあと一人誘えるけど。バケツくんも一緒に行く?」
「いや、
「それなら愛実さんの方を誘ってみるよ」
「……おい、話聞いてたか?」
「冗談だって。この機会にでも部屋に来てもらえば? ちょうど2人きりになれるチャンスだし」
「それはいい考えだな」
「じゃあ、僕はそろそろ行ってくるね」
「おう。楽しんでこいよ」
僕が部屋から出るよりも早く愛実さんに電話し始めたバケツくんを微笑ましく思いつつ、手ぶらで廊下に出て階段で1階へと向かう。
僕には男子の友達はバケツくんしかいないから、知り合いを誘うなら女子になるわけだけれど、誰か丁度よく見かけたりしないだろうか。
そんな風に思いながら扉を開けて1階の廊下に出ると、少し離れたところで待ってくれている紅葉と麗華の姿が見えた。
それと同時に、その奥の柱の陰に隠れている人物にも気が付いてしまう。あの桃色の髪とおっとりとした顔つきは……
「ごめん、バケツくんと話してたら遅くなった」
「いいわよ、そんなに待ってないし」
「時間はたっぷりありますからね」
どうやら2人は萌乃花に気が付いていないらしい。横を通り過ぎる時も彼女が慌てて死角に隠れたため、おそらく視界にすら入らなかっただろう。
そこまでして身を潜めていると言うのに、どうして気付いてほしそうなめで見つめてくるのかが分からない。
しかし、経験上彼女と関わると面倒事に巻き込まれがちだ。それを避けるためにも、僕は向こうから声をかけてくるまで反応しないことに決めた。
「はぅぅ……やっぱり影が薄いんですかね……」
反応しないと決めたのだ。決めたのだけれど、しゅんとして帰ろうとする背中を見てしまえば、やはり良心が無視することを許してくれない。
何より、S級な時点で影が薄いなんてありえないだろうと、割と本気で落ち込んでいる彼女に指摘したい気持ちが抑え切れなかった。
「萌乃花、ちゃんと気付いてる」
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