第404話

 あれからしばらくして、僕たちはお土産屋さんに来ていた。その道中で綿雨わたあめ先生には瑠海るうなさんの件を了承してもらえている。

 生徒じゃないということは本来問題ではあるけれど、既にみんな麗華れいかのメイドさんだと認知しているから問題ないとのこと。

 心が広い大人でよかったよ。まあ、他の文句を言いそうな先生には秘密にして強引に押し進めるらしいから、後で問題にはなりそうだけれどね。


「お土産、誰に何を買おうかな」


 そして今は、予定通りお土産屋さんに来ている。しかも、このお店は色んな場所に売っているお菓子が一箇所で買える便利なお店らしい。

 美味しそうなお菓子たちに囲まれて、固定観念とはでは無いけれど女子たちがやけに楽しげに見えた。


瑛斗えいと、美味しそうなのが沢山あるわね!」

「全て買ってしまいたくなります♪」

「あの子にはこれ……いえ、こっちでしょうか……」


 それは横にいる3人も同じで、キョロキョロと見回しては商品に駆け寄って気に入ったものをカゴに入れている。

 麗華はともかく紅葉の方は予算の計算をしているのだろうか。足りないなんて悲しいことにならないといいけれど。

 そんなことを思いながら、僕はちゃんと値段を頭の中で計算しながら店内を歩いていく。

 さすがにそれぞれに1箱ずつなんて余裕は無いので、色んなお菓子を買ってからそれを組み合わせて渡すことにした。


「瑛斗瑛斗! いもタルト、美味しそうよ!」

「紅葉、美味しそうばっかりだね」

「し、仕方ないじゃない! 実際に美味しそうなものばかり並んでるんだもの……」

「まあ、テンションが上がる気持ちも分かるよ。僕だってすごく楽しいし」

「ふふ、そうよね♪」


 安心したように笑う彼女の頭を撫でながら、「これも買っておこうかな」といもタルトをカゴに入れる。

 あと外せないものと言えば、やはりマンゴープリンとちんすこうだろうか。お土産として有名だし、渡したら喜んでくれるかもしれない。


「紅葉も買う?」

「何を?」

「ちんすこう」

「……まあ、買うわ。けど、瑛斗が持ってるのってちんすこうじゃないわよ」

「いや、どこからどう見てもちんすこうだよ?」

「よく見なさいよ」


 ちょっと何言ってるか分からない状態ではあったけれど、そこまで言うならとパッケージを今一度確認してみる。

 確かに言われてみれば、ちんすこうはこんな坊やが書かれた箱に入っていただろうか。それに何やら『子宝』なんて文字も目立っていた。


「あ、本当だ。よく読んだらちんすこうじゃないね」


 さすがに口に出して読んだりはしないけれど、いかにも男子中学生が喜びそうな商品だ。

 紅葉によると、『沖縄の高い出生率から、元々あったちんすこうを作り替えて子宝祈願のお菓子にした』ということらしい。

 話だけ聞くと綺麗な話だけれど、どこか悪ふざけから生まれたような気がしてならない。まあ、インパクトはあるからいい商品なんだろうけど。


「ところで、どうして紅葉はそんなに詳しいの?」

「っ……ぐ、偶然知ってただけよ!」

東條とうじょうさんのことですから、むっつりさん過ぎてわざわざ調べたんじゃないですか?」

「そ、そんなわけないじゃない! ていうか、私はむっつりなんかじゃないわよ!」

「むっつりじゃないなら、その商品名読み上げられますよね?」

「余裕よ。えっと……ち、ちん……」


 その後、紅葉はしばらく『ち』だけを発するマシーンと化したかと思えば、「言えるかい!」と叫びながら顔を覆ってしゃがみ込んだ。

 予想出来ていた結末ではあるけれど、麗華もなかなかに意地悪だね。僕でもこれを読み上げるのには抵抗があるくらいなんだもん。


「安心してください。東條さんが言えるなんて誰も思っていませんから」

「な、なによムカつく言い方ね……」

「中身までお子様なあなたには、ちんすこうが限界でしょう? 私は大人なので、是非とも子宝祈願させて頂きたいですけれど」

「……どうして僕を見るの?」

「それはもちろん、相手がいなければ子宝には恵まれないからです♪」


 麗華が「瑠海」と名前を呼ぶと、それだけで意図を察した彼女が僕を抱えて店の中でも人気のないエリアへと連行する。

 紅葉はその様子をただ見ていることしか出来なかったみたいだけれど、向こうで麗華に言われた言葉を聞いて思わずクスリとしちゃったよ。


「東條さんには、何かあったと匂わせる演技をしてくださいね。どんな反応をするのか、見てみたいので♪」


 多分、麗華も麗華でお子様なところがあるんだろうね。こうやって子供っぽいイタズラを仕掛けるのもそうだけど――――――――――。


「僕は買わないけど、麗華は買う?」

「っ……い、いえ。私も遠慮しておきます……」


 ずっと持ってたパチモンちんすこうを渡したら、ちょっと耳が赤くなってたし。

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