第403話
「お嬢様、この後はどのような予定ですか?」
「ご飯を食べ終わったので、これからお土産屋さんに行ってホテルに帰りますよ」
「意外とあっさりしているんですね」
「今日は学生にとっては夜がメインですから」
「夜這いでもなさるのです?」
「ち、違いますよ?!」
今日の夜はご飯を食べ終わった後、数週間前に募集して集まった人たちが、みんなの前で芸や見世物をする時間があるのだ。
「なるほど、そのような時間が……」
「でも、予想以上に人が集まらなかったから、飛び入り参加も受け付けるって話だよ」
「それは私でもいいのでしょうか」
「どうだろう。
「断られた場合は、その方を晒し首に……」
「倍返しが過ぎるよ」
「安心してください、冗談です」
さすがに命を奪ったりはしないけれど、睨む程度のことはするとのこと。
影に生きている彼女も目立つようなことをしたいと思うものなんだね。まあ、制服で沖縄を歩き回ってるだけでも、そこそこ目立ってるみたいだけど。
ノエル……というか僕のことを助けた時にSNSでの認知度がそこそこ上がったせいで、たまに『#制服修学旅行』でトレンドに上がってるし。
「先程、お土産と言いましたよね」
「うん、言ったよ。瑠海さんも買うの?」
「必要ないと思っていましたが、やはり買った方が良さそうですね」
「そう言えば、瑠海さんのことってあまり知らないけど、お土産を渡す相手が誰か聞いてもいい?」
「他のメイドもそうですが、両親には必ず渡したいです。私が仕事をしているという証明にもなりますし」
「そっか。ご両親は元気?」
「はい、今も元気にメイドの調教をしているかと」
「……ああ、そうなんだね」
僕は心の中で『瑠海さんの家は
「そうだ、瑠海さんが夜のイベントに参加したいって話、代わりに僕が先生にしてきてあげるよ」
「いいのですか?」
「私もお願いしに行きます。生徒がお願いした方が、承諾してもらいやすいでしょうし」
「それなら私だって行くわ。瑠海さんの特技、見てみたいもの」
「お嬢様と
僕たち3人の顔を順番に見つめる彼女だが、やはりまだ躊躇いの意思があるらしい。
そんな様子にわざとらしく深いため息をついて見せた麗華は、瑠海さんの肩に手を置いてから呆れたように言った。
「瑠海、あなた自分で言っていたじゃないですか。修学旅行期間中はメイドではない、と」
「そうですが……」
「メイドでないあなたは瑠海ですよ。自分のやりたいことをやりたいと言っていいんです」
「しかし、本当に良いのでしょうか」
「何ですか。そんなに私の口から『好きにしなさい』と命令させたいのです?」
「……いえ。お嬢様に余計な手間をかけさせてしまうわけにはいきませんので」
何かを決心したように頷いた彼女は今一度僕たちを見つめてから、「よろしくお願いします」と言って深々と頭を下げる。
その様子を見てクスリと笑った僕たちが、「もちろん」と返事をしたことは言うまでもない。
「ちなみに、どんなものを披露するつもりなの?」
「そうですね。
「……他にない?」
「
「もう少しこじんまりとしたやつの方がいいかもしれない」
「誰が死んでるでショー、みたいな?」
「お願いだから誰も殺さず、何も壊さずにして……」
「なるほど、見世物と言ってもそういう趣向の楽しみでは無いのですね」
瑠海さんはそう言いながらウンウンと大きく首を縦に振ると、「分かりました、いいのがあります」と言って何かをメモし始めた。
一体どんなものをするのかと聞いても、絶対に安全なものだからと教えてくれない。ここは彼女を信じるしかないらしい。
「まあ、楽しみに夜を待とうか」
「そうね。気になって何にも持ちが入らなさそうだけど」
「大丈夫ですよ。どうせ決まった相手へのお土産を買うだけですから」
僕や紅葉と違って麗華が平然としているのは、メイドである前に自分の幼い頃からのお姉さん的存在だった瑠海さんを信頼しているからだろうか。
それなら僕たちも信じてあげないとね。失敗したら失敗したで、そっと会場から姿を消そう。推薦人として責任を問われる前に。
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