第394話

 私たち4人は瑛斗えいとくんと別れた後、点呼を済ませてからエレベーターで自分たちの部屋がある階へと昇った。

 彼とのことをからかわれて恥ずかしい気持ちにはなるけれど、不思議と悪い気はしない。

 そんなことを思いながらカードキーをかざしてロックを解除した私は、部屋に入った瞬間に違和感を覚えた。


「あれ、こんな匂いだっけ?」


 鼻をクンクンとさせれば、何となく体育の後の教室のイメージが湧いてくる。そうだ、このスーッと突き抜ける感覚……制汗剤の匂いだ。

 確かに沖縄は冬でも暖かいため、人によっては歩いているだけでも汗ばんでしまうかもしれない。けれど、果たして制汗剤を使うほどだろうか。

 そう認識した瞬間、私の脳は知りうる限りの情報をもとに推理をし始める。


「すみれと紫帆しほって、点呼のために一旦下に降りたんだよね?」

「そうやけど?」

「つまり、それまではこの部屋で二人っきり。しかも、それなりの時間があった」

「な、何が言いたいん? ウチとすーちんはただ恋バナしとっただけやで?」

「そ、そーだそーだ!」

「……怪しい」


 2人の表情からは微かに焦りが見て取れる。ただ、それだけで今の発言が嘘だとは断言出来ないよね。

 だけど、他にも怪しい箇所はいくつかある。野暮だとは思うけれど、友達としてここはハッキリさせておくべきなのだ。うん、そうに違いない。


「何も無かったなら、どうしてベッドがやけに綺麗に整えられてるの?」

「それは……暇だったから直してただけだし!」

「2人がシワシワにしちゃったからじゃないんだ?」

「ちゃうわ! へ、変なこと言わんといてや……」


 すみれの方も確かによそよそしいけれど、こうして問い詰められていれば誰だってこうなる可能性はある。

 それに引替え紫帆はすごくわかりやすい。普段はすみれの世話焼きなお姉さんという感じなのに、こういう話題になると顔を赤くしてしまうのだから。


「もうひとつ聞くね。お風呂場の扉に水がかかってるから、シャワー浴びたことは確かなんだけどさ」


 私はそう言いながら扉の手前にあるカゴの中を覗き込む。そこに入っているものは、怪しまれるには十分な代物だった。


「2人が着てた服は入ってるのに、どうしてタオルが1枚しかないのかな?」

「っ……そ、それは……」

「も、勿体ないから同じのを使っただけや!」

「勿体ない? ホテルのタオルって使ってなくても全部取替えるんだよ?」

「うっ……」


 今、自分がすごく意地悪な顔をしているような気がする。貶めようとしている訳ではないけれど、人の揚げ足を取っているのだから。

 けれど、それを認識したとしても今更止まれない。2人の隠し事を暴くことは、2人がこの場所では本来の姿でいられるようにするってことなんだもん。


「い、一緒に入ったよ、帰ってきた時に汗ばんでたから! それでどうせならって同じタオルを使ったの。女の子同士だから問題ないよね?」

「そうだね、すみれ。それなら問題は無いよ。でも、そうなると矛盾しちゃう」

「な、なにが……?」

「だって帰ってすぐにお風呂で汗を流したんだよね? なら、どうして制汗剤の匂いがするの?」

「あ、いや、それは……」

「ふふ、どうしてなの〜?」


 クスクスと笑いながらすみれに顔を近付けると、オドオドとする彼女との間に紫帆が割り込んでくる。

 そして短いため息をつくと、「全部ノエルが想像してる通りや」と白状してくれた。


「私たちな、実は――――――――――」


 まあ、さすがにそこまで進展しちゃってるとは思いもしなかったから、思わずキョトンとしちゃったけどね。


「――――――つ、付き合うことにしたんや!」

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