第392話
無事にお土産を買い終えた僕たちは、
これで今日の自由時間は全て終了。あとはホテルまで戻って、夕食の時間を待つだけだ。
「皆様、いいお買い物はできましたか?」
「みんな喜んでくれると思うよ」
「そうだといいわね」
「お土産をもらって嫌がる人なんていませんよ」
車を走らせながら僕たちの言葉にウンウンと満足げに頷いた瑠海さんは、「ノエル様とイヴ様は……」と言いかけてやっぱりやめた。
ミラー越しに見えた彼女たちは疲れてしまったのか、互いにもたれ掛かりながら眠っていたのだ。話しかけて起こしてしまっては悪いだろう。
「あ、言い忘れていました。もしかすると
「ああ、殴られた件ですか?」
「被害者には話を聞く必要がありますからね。とりあえず、『殴られた時の記憶が無い』と答えておけば向こうが悪くなるのでどうぞ」
「わざとだと言うのも心象悪いですからね。そうさせてもらいます」
あの時は仕方の無いこととは言え、相手が貶められるように仕向けたのだから少しは僕にも非がある。
事件を助長したと言えなくもないし、それであの男への罰が少なくなっては体を張った意味が無い。
ここは主観的な意見は捨てて、あくまで男が殴りたくて殴ったということにしておこう。実際殴りたいという気持ちはあったみたいだし。
「瑠海さんは大丈夫なんですか?
「私は大丈夫ですよ。裏の世界に住む人間ですから、いざとなれば死んだという事にして別人になり代われます」
「そうなると瑠海さんって呼べなくなりますね」
「アイスの達人と呼んでください」
「呼びませんよ」
彼女は「知ってます」と呟くと、ウィンカーを出して右へと曲がる。
ここからホテルまでは15分もあれば着くだろう。少し疲れてきたし寝させてもらおうかな。
そう思って狭い真ん中の座席でも寝やすいように顔を右へ向けた僕は、目の前の光景に一瞬固まってしまう。
「
「あ、瑛斗さん。いい風が吹いてますよ」
「それは良かったけど、やけに沖縄感出してるね」
「そうですか? この風がそうさせたんですかね」
ちょっと何言ってるか分からない状態ではあるが、いつの間に羽織ったのか分からないアロハTシャツに、頭に乗っていたサングラスを装着。
その見た目で前回にした窓枠に肘を乗せて風を感じていたら、それはもう沖縄在住3年目くらいの雰囲気は醸し出せるだろう。
「走ってる時に窓開けると騒がしいからさ。閉めてもらってもいいかな」
「満足したので構いませんよ」
「あと、そのサングラス貸してくれない?」
「どうぞ♪」
僕は真っ暗じゃないと寝られないタイプだから、サングラスでなるべく光を遮って寝やすい環境を整えることにした。
それからやっぱり顔は左向きだなと方向を変えると、ちょうどあくびをしていた紅葉と目が合い、そして「ぶっ?!」と吹き出されてしまう。
「ふっ……ふふ……似合わなさ過ぎよ!」
「そんなに笑わなくてもいいでしょ」
「ごめんなさい。でも、ふふ……面白くって」
「我ながらなかなかいい感じになってると思うんだけどなぁ」
「頼りなさが滲み出てるのよ。知らない人が見ればいいかもしれないけど、よく知ってる私からすればすごく不恰好ね」
「それは残念」
このまま笑われ続けても眠れないので、とりあえずサングラスは麗華の頭の上に返しておいた。
確かに麗華のこのスタイルと比べてみれば、僕なんて二本足で歩く猫くらい違和感があるのかもね。
「これでいい?」
「ええ、その方が好きよ」
「紅葉がそう言うならこれでいいや」
「暗くないと眠れないのよね? なら、私が暗くしてあげてもいいわよ?」
「どうやって?」
「ふふ、こうするの」
彼女はそう言って僕の頬に手を添えると、そっと自分の方へと引っ張る。それからギュッと抱きしめると、自分の胸元に顔を埋めさせた。
確かにこれなら視界が遮られてくらいけれど、色々と問題があるような気がする。そう思って離れようとするも、紅葉離そうとしてくれない。
「このままでいてちょうだい」
「……まあ、いいけど」
本人がそういうのならいいだろうと割り切って目を閉じる僕。その暗闇はとても温かくて、幸せな気持ちで眠りに落ちられた。
ただ、身長差のせいであまり良くない体重のかけ方をしたこともあり、起きてからしばらく肩や腰が痛かったということは言うまでもない。
「次は座りながらじゃない時に頼むね」
「そ、そうね。気をつけておくわ」
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