第389話

「とりあえず、親戚にはこれでいいですね」


 そう言いながらいかにも沖縄っぽい置物を一つ手に取った麗華れいかが、店員さんに「これとこれの色違いを5つずつ用意して貰えますか?」と聞いていた。

 僕はその横顔をぼーっと眺めながら、沖縄の海を再現したスノードームを2種類カゴに入れて「喜ぶかな」と無意識に呟く。


瑛斗えいとさん、どなたにあげるんです?」

「従姉妹だよ。親同士があまり仲良く無いからとっくに疎遠になってるけど、一応送ってあげようかなって」

「従姉妹いたんですね」

「まあね。いらないなら捨ててくれてもいいし、置いておいてくれるなら嬉しいくらいの気持ちで送るよ」

「ちょうど配送をしてくれるサービスがあると聞いたところなので、瑛斗さんも頼んでみてはどうですか?」


 彼女にそう言われた僕は、「そうしようかな」と一緒にレジへと向かう。

 ついでにカナや会長たち渡す分も自分の家に送っておこう。この量を持って移動するのは、言葉通り骨が折れかねないから。


「こちらの伝票に住所をご記入下さい」


 店員さんに従って伝票を完成させると、手数料も含めた代金を支払って財布をカバンの中に仕舞う。

 お菓子系のお土産屋の配分を多くするらしい紅葉、ノエル、イヴはさっさと終わらせて外で待ってくれている。

 あまり待たせるとわるいだろう。そう思って自分たちも早く出ようと思ったけれど、ここで一つ問題が起こった。


「えっと……本当に74箇所に郵送するんですか?」

「もちろんです」

「74枚伝票を書くことになりますが……」

「構いません」


 全国の至る所に親戚がいる麗華は、僕のように会えば渡せばいいだとか、家に行って手渡しなんてことが難しい。

 そのため、この場で全員分の伝票を書く必要があるのだが、どう考えても一人でやる作業料ではない。

 普段ペンを握る機会の少ない人なら、これだけで腱鞘炎になる可能性だってあるほどだ。


「あの、お嬢様」

瑠海るうな、戻ったのですね」

「無事引渡しが完了したので。それよりも、その作業はメイドにお任せ下さい」

「あなたはこういう作業は得意ではないでしょう?」

「はい。ですので、こんな時のために助っ人を手配しておきました」


 瑠海さんが「来なさい」と言いながら手を叩くと、小走りでメイド服を着た3人の女の人が彼女の隣に並んだ。

 見たことがない顔ばかりだけれど、麗華の屋敷で働いているメイドさんではないのだろうか。


「彼女たちはオリエンタルホールディングスの沖縄支部から呼んだ者たちです」

「オリエンタルホールディングスって、麗華のお父さんが経営してる会社のこと?」

「はい。沖縄にも何かアミューズメントパークを作れないかという企画が立ち上がっているようです」

「なるほど。ということは、この人たちは本来はメイドさんじゃないってこと?」

「察しがいいですね。彼女たちは普段、経理の仕事に当たっている普通の会社員です」


 瑠海さんが言うには、助っ人3人はみんな作業が早い上に正確なことで上司からの評判もいいらしく、今日は特殊業務ということで借りてきたんだとか。

 そんな話を聞いている間にも彼女たちは動き始め、瑠海さんから受け取った親戚の名簿を見ながら、それぞれが抱えてきた機械を合体させていく。


「これは?」

「プリンターのようなものです。伝票をセットするとそれを読み込み、繋げたパソコンの画面に伝票が表示されます。AIが文字の大きさや位置を勝手に決めてくれるので、名簿の通りにタイピングすれば出てきた時には完成しているという仕組みです」

「すごい機械だね。でも、ひとつしかないよ?」

「打つのは一人だけですから」


 瑠海さんが振り返ると同時に準備を終えた3人は、それぞれ自分の仕事をする位置につく。

 その直後、僕は予想以上の手際の良さとその仕事っぷりに驚くことになるのであった。

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