第382話
道路脇に寄せて停車した車から降りると、そこは目を引くお店の立ち並ぶ通りの前だった。
ここには沖縄の色々な食べ物やお土産が集まっているようで、よく修学旅行生が自由行動で散策するスポットらしい。
「遅めに来たからか、人はそこまで多くないね」
「
「誰が子供よ。迷子になんてならないから」
「聞きましたよ。夏祭りで迷子になったこと」
「っ……
「教えたのは僕じゃないよ」
人の恥ずかしいエピソードを口外するのは良くないことだし、今回は僕も奈々を庇わないでおこうかな。
「ねえねえ、お土産屋さんってあそこかな?」
ふと立ち止まったノエルが指差したのは、薄暗い脇道の奥に見える寂れたお店。
看板があるからギリギリお店だとわかるけれど、そもそもお土産を売っているのかすら怪しいね。
「あんなの、よく気付いたわね」
「だってお土産屋さんで検索したら、あのお店が候補に上がってたんだもん」
「それならお土産を買えることは間違いないですね」
「……」ジー
お店を見つめる4人の言いたいことは何となくわかる。きっと『あそこだけは無いな』という感じのことに違いない。
彼女たちは僕が「目的の場所はもう少し先だよ」と言うと、安心したように頷いて歩き始めた。
「明日行くお土産屋さんは、食べ物が多いのよね?」
「そうですね。今日は形に残るものがメインのようですから、誰に何を渡すのかを考えておく必要がありますね」
「でも、渡す相手なんてそんなに多くないわよ」
「東條さんはそうでしょうね、私はたくさん買わないと行けませんが。ああ大変大変」
「……殴ってもいいかしら」
怒りの炎が燃え始めた紅葉には、「ほら、可愛い人形とかもあるよ」なんて画像を見せて落ち着かせる。
しかし、彼女はそんなことよりも進行方向に見える人集りが気になったようで、「何の集まりかしら」と首を傾げていた。
それから少しずつ人集りの正体を知ろうと、紅葉が早足になった直後のことである。
「
そんな声が聞こえてきたかと思えば、騒がしかった声がピタリとなりやんだ。
それから何か言い合うような男女の会話が続いた後、ようやく声を取り戻した人集りをかき分けて声の主であったと思われる2人組が飛び出してくる。
「あ、ちょ?!」
人集りに囲まれていたのはこの2人なのだろう。逃げるように走るところを見るに、いい意味で捕まっていた訳では無いらしかった。
彼らは前が見えていなかったのか、女の方の肩が紅葉にぶつかってしまう。
僕が支えに駆け寄ったおかげで転ばずには済んだけれど、その子は「本当にごめん!」とだけ言ってすごいスピードで走り去ってしまった。
「紅葉、大丈夫?」
「ええ、平気よ。ありがと」
「気にしないで。この辺りは人も多いみたいだし、手繋いで歩こうか」
「……そうね、その方がいいわ」
彼女は素直に頷くと、僕の手を握ってくれる。その様子を見ていた麗華とノエルも空いている方の手を取ろうとしてくるけれど―――――――。
「3人も並んだら迷惑よ」
紅葉にそう言われると、紛うことなき正論だからか渋々引き下がってくれた。
その代わりなのか、イヴの意向で2人が手を繋ぐことになってたよ。ノエルはもちろん、麗華までも満足そうなイヴには逆らえなかったみたい。
「あ、見えてきたよ」
「突然スピリチュアルなこと言わないでもらえる?」
「いや、見えます見えますじゃないけど。お土産屋さんが見えてきたってこと」
「あ、そっちね」
「逆にどうしてそっちに行ったのかが不思議だよ」
紅葉が言うには、ついさっきそういう系のポスターが貼られているのを見たから、思考が持っていかれてしまったらしい。
そんなに影響されやすいタイプなのかな。麗華も前に催眠術をやったらかかってたけど、彼女にも試してみようかな。
「……何かよからぬことを考えてない?」
「そんなことないよ。お土産誰に買うべきかなって数えてただけ」
「本当かしら」
「僕を疑うの?」
「その一言で怪しさ倍増よ」
その言葉に、『確かに刑事ドラマなんかでは、疑うのかと文句を言うやつ怪しい説があるなぁ』なんて呟きつつ、どんな催眠術をかけようかと考える僕であった。
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