第381話
ジェラートを食べ終えた僕たちは、みんな揃って満足げな顔をしていた。新作である『すりおろしデコポン味』が想像以上に美味しかったからだ。
「あれは売れますよ」
「びっくりしたわね」
「皮まで入ってるのは驚きでした」
「おかげで風味が高まってたもんね!」
みんなの意見を聞いた
けれど、すぐにそれを拭うと、「それなら明日から並べることにする」と商品化することを決めてくれる。
「私、もう一個食べよかな」
「すーちん、お腹壊すで」
「腹と引き換えにまた味わえるなら……!」
「やめときって。あんたが倒れたら、ウチが看病したらなあかんくなるやろ」
「別に1人でも休めるしー!」
「……そんなん、ウチがほっとかれへんわ」
照れ隠しなのか、最後に「あほ」と付け加えた
この2人はどこまで仲がいいのだろうか。早く結婚しちゃえばいいのに。
「じゃあ、僕たちはもう行きますね」
「ああ、また沖縄に来た時は立ち寄ってくれ。その時はサービスしてやらんことも無い」
「その機会があればぜひ」
瓜島さんに頭を下げると、僕たちはそのままジェラート屋さんから出て、駐車している車へと向かう。
しかし、乗り込もうとドアを引っ張って鍵がかかっていることを知った瞬間、いつの間にか
「あの人、いつも消えるね」
「きっと職業病みたいなものよ」
「ジェラートは一緒に食べたはずなんですけど……」
そんな話をしていると、「申し訳ございません」と言いながら小走りで瑠海さんが出てくる。
その手に持たれているのは、どうやら氷の入ったビニール袋らしかった。
「念の為に追加の氷を貰ってきたのです」
「よほどハンバーグが大事なんだね」
「死んでも守ります」
「そこはさすがにハンバーグ捨てようよ」
「冗談です、命あってこそですので」
彼女はそう言いながらリモコンを操作して車のロックを外すと、「どうぞ」とドアを開けて乗車を促してくれる。
僕たちが乗り込めば、今度は少し離れたところでタクシーの窓越しに近藤さんたちと話しているノエルの方へと目を向けた。
「ノエル様、イヴ様、そろそろお時間です」
「今行きます! じゃあ、先にホテルで待っててね」
「楽しんできぃや」
「私たちは2人っきりで楽しむかんね♪」
「ちょ、変な言い方やめや! 普通に部屋でゴロゴロするだけやろ」
「ふふふ、本当にそれだけかな?」
「っ……な、何が起こるかはわからんけどやな……」
水族館で会ったことで予定とは少し違う形ではあるが、僕たちはノエル&イヴと合流して、近藤さん&紫帆さんはもうホテルに戻ることになっている。
僕たちが行くのはみんなが行ってみたいと言っていたお土産屋さんで、近藤さんたち2人は明日に設けられているお土産を買う時間で指定された店だけで済ませることにしたからだ。
ノエルは帰った頃に何かが起こっていることを期待しつつ、もう一度お別れの言葉を口にしてイヴと一緒にこちらの車へと乗り込む。
「僕も何か起きてほしいと思ってるよ」
「ふふ、だよね♪」
走り出す車の中から手を振る二人が見えなくなるまで振り返した後、僕たちも瑠海さんに頼んで発車してもらった。
今度は
「特に深い意味は無いんだけど、もう1回僕に抱っこされてみない?」
「正直に言ったら考えてあげるわ」
「人には言えないこともあるんだよ」
「……深い意味ありまくりじゃない」
やれやれと首を振りながらも、
「乗りたかったんだ?」と言ってみたら、「仕方なくよ、仕方なく」と自分に言い聞かせるかのように言って僕の両手を引っ張って自分の腰に抱きつかせた。
「バスに乗ってる時にカバンを抱えてるのと同じくらい安心するね」
「誰がお荷物よ」
「そういう意味じゃないよ」
車の微かな揺れは心地よく、また鼻先をくすぐる彼女の髪から漂うシャンプーの香りも同じく眠気を誘う。
「紅葉、家からシャンプー持ってきたんだ?」
「どうしてそう思うのよ」
「いつもと同じ匂いがするから」
「……正解だけどあまり匂わないでもらえるかしら」
「くんくん」
「っ……殴られたいらしいわね?」
「冗談だよ、冗談だから――――――――」
その後、紅葉に脇腹とみぞおちを2発ずつやられ、こめかみもグリグリされたことは言うまでもない。
お詫びに僕の匂いも嗅いでいいよと伝えたら、同じのをもうワンループされたけどね。
「……
「あ、ほんとだ」
「仕方ないわね、今日のところは勘弁してあげるわ」
「勘弁って言えないほど叩かれたんだけど」
「まだ反省してないのかしら」
「
うん、やっぱりルールは守らないとね。緊張しながら生きる方が難しいことだろうし。
僕は心の中でそう呟きながら、膝の上から紅葉を降ろして警察が居なくなるまで大人しくすることにするのだった。
「どうでもいいけど、悪いことしてなくてもパトカーを見ると目逸らしちゃうよね」
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