第375話
全員が着替えを終えた後、ノエルたちのタクシーが停まっている場所までは全員が
この車は前から2-3-2の7人乗りなのに人数が8人だから、不満そうな
「チャイルドシートを付けないと、警察の方に怒られてしまいますね」
「誰が子供よ!」
「でも、こうして抱っこしてると妹のお世話をしてるみたいな気持ちになるよ。すごく落ち着く」
「そ、そう? それなら悪い気はしないけど……」
「
「えっ……」
安堵の表情で頬を緩ませる彼女を見ていると、僕まで笑顔になっちゃうよ。帰ったら
「でも、紅葉ちゃんだけずるい! 私だって
「ノエルちゃんはアイドルなのよ。もう少し接触を控えたらどうなの?」
「アイドルの前に乙女だよ! 瑛斗くんがアイドルやめたら結婚してくれるって言うなら、今すぐにでもやめるもん!」
「ノエルにとってアイドルってそんな軽いんだね」
「うっ……じょ、冗談だよ! だから引かないで?!」
「イヴも悲しいよね」
「……」シクシク
「やめないやめない! アイドルとして売れないならタレントに転向して頑張るから!」
「……」グッ
助手席からグッドサインを送られ、ノエルはホッとため息をこぼす。
無理して続ける必要は無いと思うけれど、好きなのにやめちゃうのは勿体ないからね。
ファンのみんなだって悲しむだろうし、
「でもね、最近私に恋人がいるんじゃないかって噂が流れてるんだよね」
「ほら、引っ付きすぎなのよ」
「それが相手の情報みたいなのも出回ってて……」
そう言いながらノエルが見せてくれたのは、噂についてまとめられた誰かのブログのようなもの。
そこには『相手は身長187cmの中性的なイケメンで、IT会社社長の御曹司で、流行の最先端を行く凄腕ファッションデザイナー』と書いてあった。
「「「……」」」
「みんな言いづらそうだから自分で言うけど、僕と真逆の人間だね」
「瑛斗が言ってくれて助かったわ」
「まったくですね。似ても似つきません」
「これが私の恋人だなんて、どこからこんな間違った話が出てきたのかな」
僕は身長はそんなに高くないし、イケメンでもなければお金持ちでもない。おまけに服は着れればなんでもいいと思っているタイプだ。
たとえノエルのファンが遠くから僕たちが一緒にいるところを見かけたとしても、こんな風には思わないだろう。
きっと『のえるたその相手はこんなすごい人のはずだ!』という崇め奉る信仰心が、現実を大きく歪めた結果だね。ちょっと胸が痛いよ。
「まさかとは思うけど、ノエルちゃんって瑛斗以外の男とデートしたりしてないわよね?」
「私はそんなビッ……最低な女じゃないよ!」
「今とんでもないことを言いかけましたね」
「はて、なんの事やら」
両手を顔の横で水平に広げて、アメリカのコメディドラマのようにとぼけてみせるノエル。
しかし、彼女は「あっ」と声を漏らすと、何かを思い出したように顎に手を当てて悩み始めた。
「どうかしたの?」
「実は一度だけあるんだよね、他の人とのデート」
「やっぱり悪い女じゃないですか!」
「ち、違うよ! 番組の共演者に差し入れを渡したことがあるんだけど、それが美味しかったからってお礼でご飯に誘われただけで……」
「その共演者って誰なの?」
「
「「「っ……」」」
その名前を聞いた瞬間、僕たちは同時に息を飲んだ。町田輝明と言うのが、数々の主役を務めてきた売れっ子俳優だったからだ。
「……って、町田輝明って今年69歳じゃない」
「おじいちゃん俳優ですね」
「さすがに勘違いされたのはその人じゃないと思う」
「そ、そうですよね! でも、他には――――――」
再び悩み始めた彼女は、「あっ!」と先程より大きな声を漏らす。また何か思い出したのだろう。
今度こそ噂の中性的なイケメンとやらの正体だといいんだけど。僕は心の中でそう呟きながら、ノエルの声に耳を傾けるのだった。
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