第363話
「いやぁ、アイドルしながら学生って大変そうだよね〜」
「せやな。ウチには出来へんわ」
「そもそも
「は? あんたよりマシやわ」
「なにを〜! このこの!」
ノエルとイヴのクラスメイトであり、ビデオ通話をした時にも話した
仲良さそうに喧嘩する彼女たちを横目で見ながら、僕は青色と戯れるノエルを眺めていた。
「じゃあ、今日はここまで! また次の配信も見てね、バイバイ♪」
自撮り棒の先に取り付けたスマホのカメラに向かって手を振った彼女は、配信を停止させると満足げなため息をついてこちらへと駆け寄ってくる。
「みんなごめんね、待たせちゃって」
「平気平気、30分なんて毎日無駄にしてるくらいの時間じゃん」
「すーちんは3時間は無駄にしてそうやけどな」
「そんな暇人じゃないですぅー!」
「彼氏なしで帰宅部でアニメ大好きゲームオタクなすーちんが暇やないんや?」
「くっ……」
「ついでに言うといつも宿題してきてへんやん。何に時間使っとるん」
「それは……まあ、紫帆のこと考えたり、的な?」
「…………いや、引くわ」
「冗談だって!」
どうやら近藤さんと紫帆さんはかなり仲がいいらしい。それはもう、ノエルがその光景を見ているだけで楽しそうな顔をするほどに。
「そう言えば、ノエルたちって動物に触れ合える場所に行くんじゃなかったの?」
「うん、行ったよ。行ったんだけど、ちょっとトラブルが発生しちゃって……」
「トラブル?」
「私が鳥に餌をあげようとしたら、意外とたくさん飛びかかってきて転んじゃったの。それを紫帆が助けに来てくれたんだけど――――――――」
話を聞いたところ、紫帆さんは鳥がすごく苦手だそう。小さい頃にカラスに襲われてから、くちばしを直視できないらしい。
そんな彼女が咄嗟に助けに入ったはいいものの、周囲には大量の鳥。彼女までも腰を抜かして立ち上がれなくなり、結局ノエルが紫帆さんを助けることになったんだとか。
「本来は外から見てるだけだったのに、私が転んだから助けに来ちゃったんだよね。そのせいでしばらく震えちゃってて」
「それは大変だったね」
「だから、それならいっそ鳥の餌にもなる魚を見に行こうってすみれちゃんが」
「何と言うか、複雑な気持ちになるよ」
「でも、それがすみれちゃんの優しさだと思うの」
確かに、この場所から動物に触れ合える場所と言えば、そこそこ距離が離れているだろう。
一人が鳥NGだからと別の動物に早く移動するのではなく、真逆とも言える場所に行って安心させてあげようとする。なかなかできる事じゃないね。
「最初に鳥を終わらせようって言ってたから、向こうで触れ合えたのはその子たちだけだったけど」
「こっちを楽しめばいいよ。ヒトデは触れた?」
「ふふ、ナマコも握ってた」
「じゃあ、ここには怖いもの無しだね」
僕はノエルと2人で微笑み合うと、遠くに見えるジンベエザメに見蕩れている
そろそろ次のエリアに進むべき時間だ。あまりここで長居するのも、他のお客さんに迷惑だろうから。
「
「僕は構わないけど。他のみんなはどうかな」
「私は別にいいわよ」
「右に同じですね」
こちら側の2人が首を縦に振ったのを確認すると、ノエルと同じ班の3人も同じように頷いてくれる。
「……」コク
「大勢の方が楽しそうじゃんね」
「ちょっと、ウチもそれ言おうとしてたんやけど!」
「今からでも言えば?」
「あんたの二番煎じみたいになるやろ、嫌やわ」
「ふっ、私の完璧さに嫉妬かな?」
「欠陥人間の象徴が何言うとるん」
「私の何が欠陥だって?!」
「いつも朝起こしたらなあかんやろ。夜ご飯も用意したらな自分で作れへんし、ウチがいないと生きていけへんとこやな」
「……えへへ、いつも感謝してます」
「その気持ち、忘れんときや」
楽しそうに笑いながら「紫帆様ぁ〜」と抱きつく近藤さん。僕はノエルにこっそり「2人って付き合ってるの?」と聞いてみるが、明確な答えは返って来なかった。
「少なくとも、今は付き合ってないと思うけど」
「……今は?」
「愛には色んな形があるからね」
「確かに」
本人達が幸せなら僕はそれを応援しよう。訪れるかもしれない未来を思い描きつつ、心の中でそう決心するのであった。
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