第351話
「やっと私もゴール出来たわ」
そして、このターンで
「まあ、私の勝ちは決まりですね」
「悔しいけど、覆しようがないわ」
「負けちゃったね」
「完敗だな」
麗華の最終的な所持金は、他4人の所持金を合わせたよりも多い。彼女がゴールしている時点で、彼女に対するイベントが怒ることも無い。
つまり、この場にいる誰も結果を変える力を持ち合わせていないというわけだ。
「勝ったので皆さんにジュース1本ずつ奢ってもらいましょうかね」
「はぁ? そんなの聞いてないわよ」
「敗者に文句を言う権利はありません」
「どこの独裁国家よ」
「
「嫌よ、絶対に着るから!」
「ペットに服を着せると良くないんです」
「誰がペットよ!」
ジュース1本で喧嘩する2人を横目で見つつ、僕はなけなしのお金を片手にカジノマスへと止まった。
正直、麗華の所持金の10分の1も持っていない時点で、モニカの体質があっても逆転はありえない。
それでも少しでも上の順位になりたいと思うのが人間。僕も例外ではないし、何よりカジノマスがどんなものなのか見ておきたかった。
「えっと、お題は……バケツくんにしようかな」
「なんだ、キスとかやめろよ?」
「そのお題なら少なくともバケツくんは選ばないよ」
「それもそうか。で、どんなお題だ?」
「こっちに近付いてくれる?」
僕の言葉に首を傾げながらも、体を前のめりにして顔を近付けてくれるバケツくん。
そんな彼の額に手を伸ばした僕は、中指に思いっきり力を入れると、そこそこの勢いをつけてペチンと弾いた。そう、デコピンである。
「いっ?! 何するんだよ!」
「だって、誰かにデコピンしろって書いてあるから」
「俺じゃなくてもいいだろ……」
「他の誰を選べって言うの」
そう聞いてみると、バケツくんは女子3人を順番に見てから、ぶるっと身震いをして諦めたように「俺だな」と呟いた。
「でも、先に言えよな」
「ごめん、サプライズしたくて」
「喜べるサプライズにしとけ」
「デコピンは白血球が傷つくのを防ぐ効果があるよ」
「それはリコピンだろ」
「おお、賢い」
「それほどでも……ってそういう喜ばせ方じゃないからな?!」
その後も文句は言いつつも、何だかんだ水に流してくれた。これからはちゃんとデコピンをすると伝えてからすることにしよう。機会があればね。
「それで、カジノマスの効果はどうなんだ?」
「あ、忘れてた」
お題もクリアしたので、画面に移るイベントの様子を確認してみると、遊び人の山根が『俺に勝てたら10倍にしてやるぜ』と言っていた。
ジャンプならここに来ての山根の登場は熱かったかもしれないけれど、人生ゲームだから軽くスルーしておく。
『ちょっと待った! お前、ビリなのか?』
「山根、人の傷を抉り始めたよ」
『そんな可哀想なお前に俺からカードをプレゼントしてやろう』
どうやらビリの救済措置がまだ残っていたらしい。僕は裏向きで3枚表示された内の1枚を選択すると、そこに書かれた効果が自動で発動された。
『1位の所持金を全額使って賭けに挑戦する。勝利した場合は3分の1を獲得出来る』
所持金が全て僕へと移っていく様を見て目を丸くしたのは、現在圧倒的1位だったはずの麗華。
簡単に言えば、これから行われるじゃんけんで勝てば麗華の所持金も増えるし僕の所持金も増える。負ければ麗華が全てを失うということだ。
他人の金でカジノに行く、紛れもなく最低な人間ではあるけれど、ゲームの中の話だからギリギリセーフだよね。
『そろそろ始めるぞ。じゃんけん――――――』
ポンの合図でグーを選択した僕は、山根の出している手を確認してから、ゆっくりと麗華の方を見た。
彼女の反応だけでも自然と分かってしまう、相手が出した手がパーであるという事実が。
「そ、そんな……私の財産が……」
「
「そういうことになるね」
「ふっ、調子に乗ってるからそうなるのよ」
「こんなの嘘ですよぉ……ぐすっ……」
「……え、そんなに泣く?」
余程本気で戦っていたのだろう。悔し涙を流す彼女に同情して、紅葉はジュースを奢る話は無しということにしてくれたのだった。
「こ、これが借りだなんて思ってませんから!」
「ジュースくらいで借りになんてしないわよ」
「そんなこと言って、後でネチネチ言うんですよ」
「ほんと面倒臭いわね! 楽しく遊べたんだから満足でしょ?!」
「……それもそうですね」
「泣いてないでそろそろ帰るわよ。見回りの時間が近いんだから」
「ふふ、そうしましょうか♪」
おやすみのあいさつをして部屋に戻っていく3人を見送ってから、思ったよりも静かになった部屋の中で僕はバケツくんと一緒にため息をつく。
「楽しかったね」
「そうだな」
もちろん、満足げなため息だけどね。
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