第349話
人生ゲームを初めてから数分、特に誰もコケることなく順調に戦いは進んでいた。
ちなみに、
「ふん、ゲームの中でもお金持ちキャラなんて性格悪そうね!」
悔し紛れにそんなセリフを口にしながら、紅葉がアルモンドを選んだことにより、全員の操作キャラは以下の通りになった。
唯斗・・・勝負師のモニカ
紅葉・・・ハーモニカ吹きのアルモンド
麗華・・・成金のジェームズ
プレイヤー無しということで、使い手がいない遊び人の山根が悲しそうにこちらを見つめている。
それでも2キャラを扱うわけにもいかないので、仕方の無いことと諦めてゲームを続けているのだ。
「それにしても、この人生ゲームすごいわね」
「アナログかと思っていたのですが、まさかデジタル寄りだったとは」
「俺も知らなかったぜ」
「
「俺、即買いしちゃうタイプだからさ!」
「……はぁ」
実はこのゲーム、キャラの駒の中にチップが埋め込まれており、それに反応して止まったマスでイベントが起こる仕組みなのだ。
つまり、キャラ固有の体質が発動するかどうかも機械任せ。その部分でな完全に運頼みになっている。
「よし、次は俺の番だな」
そう意気込んでサイコロルーレットを回すバケツくん。彼の指に弾かれてクルクルと高速回転した矢印は、惜しくも7を通り越して位置を示した。
「また1かよ!」
「友介、ほんと運がないよね」
「愛実は6を出しておきながら、お題をこなせなくて3しか進めなかったけどな?」
「ほ、掘り返さないでよ!」
この会話を聞いて分かる通り、この場でのローカルルールとして設けた『お題カードシステム』は、それなりに足止めの役割を果たしている。
大きな数字を出したとしても、半分しかこなせなければそれだけしかコマを進められない。
そのせいでルーレットの運によらず、みんなのキャラは同じような場所に止まっていた。
「えっと、お題は……『右隣と手を繋ぐ』だな」
「友介の右は私だね!」
「これなら簡単だ」
愛実さんとバケツくんは微笑み合うと、どちらからともなく手を繋ぐ。たった1マスしか前に進めていないが、そんなことはもう気にしていないらしい。
「次は私ね」
「
「あら、
「いえいえ、手助けをした上で勝てば、より屈辱を味合わせられると思っているだけです♪」
「……相変わらず腹黒いわね」
紅葉は短いため息をつくと、「3以上なら止まれるわ」とルーレットを回した。
みんなを苦しめているお題カードだが、実は使い方によってはお得な制度でもある。
お題をこなさなければ前に進めないという足枷は、逆に言えばお題をクリアしなければそこまでで止まれるということなのだから。
「よし、4だから1つ捨てられるわね」
彼女はそう言ってお題カードを4枚引くと、なるべく簡単そうなものを3つチョイスするために順に見比べ始めた。
しかし、ここでも注意すべきことがある。ひとつしか捨てられない状況で、2つ嫌なものを引いてしまった時の対処法だ。
「ど、どっちなら出来るかしら……」
もちろん、2つを捨てるという選択肢もあるが、次のターンがもっと過酷な状況にならないとは限らない。
人生ゲームという前に進む方が有利になる勝負において、誰もが立ち止まることはなるべく避けたいのだ。
「……こっちにするわ」
散々悩みに悩んだ紅葉は、選んだ方のお題カードを握り締めると、それを麗華に見せつけるように差し出す。
一体どんな内容なのかと気になって覗き込んでみた僕は、「確かにこれは悩むね」と思わず頷いてしまった。
『隣ではない誰かの頬にキスをする』
まさにパリピが集まる王様ゲームで、アルコールが回って来た頃に出されそうなお題である。
僕はこれを自分が引かなくてよかったと思いつつ、もうひとつの方はもっと過酷だったのだろうと同情の眼差しを紅葉に向けた。
「え、あの、東條さん?」
「唇じゃないんだから、大人しくされなさいよ」
「私じゃなくてもいいのでは……」
「ジェームズを取った仕返しよ」
「随分と根に持ってたんですね?!」
「私だって恥ずかしいんだから、早く終わらせるために大人しくしてもらえる?」
「……わかりましたよ」
その後のことはご想像におまかせしよう。ただひとつ言えることは、お題をクリアした時には両方が真っ赤になっていたということだけだね。
「というか、お題に問題あるよね」
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