第347話

 紅葉くれは麗華れいか愛実あみさんの3人を部屋に招き入れた僕は、未だに倒れているバケツくんを叩き起した。


「はっ?! 瑛斗えいと、今怖い夢を見たぞ!」

「それ、多分夢じゃないと思うよ」

「……え?」


 彼はベッドの上に腰掛ける女子3人を順番に見た後、紅葉を三度見してからスススっと後退りをする。


「何よその反応。もう殴らないわよ」

「あいつ、小さいくせに馬鹿力だったんだよ!」

「……まだ躾が足りてなかったかしら?」

「ひ、ひぃぃぃ!」


 ベッドから降りようとする紅葉は、愛実さんに止められて事なきを得たが、もしそうでなかったらバケツくんの命は危なかったかもね。


友介ゆうすけ、紅葉ちゃんだって身長のこと気にしてるんだから。あまり言わないであげて」

「わ、悪かったよ……」

「反省してるから許してやってくれる?」

「……まあ、今回は忘れてあげるわ」

「心が広い子でよかったね」

「ありがとうございます」

「ふふ、どうして敬語なのよ」


 その後、何度もバケツくんが謝るせいで逆に鬱陶しいと怒られてしまっていたけれど、なんだかんだ円満に解決してくれたみたいでよかった。


「ところで、紅葉たちって何階の部屋なの?」

「12階よ」

「12階から8階までハシゴで降りてきたってこと?」

「そうなりますね、体力的には余裕でしたけど」

「それよりも音で先生に気づかれてちゃいそうで怖かったよね〜」

「カーテン空けられたら丸見えだもの」

「そんな問題起こしたら、きっと罰として自由時間は先生と一緒に行動ですよ」


 その言葉に「最悪ね」「絶対嫌ですね」なんて頷きあってから、そもそも先生と同じ班だったことを思い出して落ち込む紅葉と麗華。


「そもそもの話、3人は僕たちがこの部屋だって知ってたんだよね?」

綿雨わたあめ先生に聞いたの」

「点呼の時に教えてもらいました」

「そんな質問したら、怪しまれちゃわない?」

「確かにそうなんだけど、白銀しろかね 麗華れいかが言うのよ」

「何を?」


 僕が麗華の方へと視線を向けると、彼女は胸を張りながら「瑠海るうなに見張らせているので大丈夫です」と口にする。


「私たちの部屋とこの部屋の前に監視カメラをセットしてもらいました。もし教師が扉を開けようとすれば、麻酔針が発射されて深い眠りに落ちます」

「本当に麻酔だよね? 命の危機はないよね?」

「刺さりどころによってはやむを得ない場合も」

「いや、今すぐ部屋に戻ろっか」

「お断りします♪」

「せめて瑠海さん本人に先生を止めてもらうとかにしない? 部屋の前に人が倒れてるのも変だし」

「瑠海が直接の方が危険だと思いますが」


 彼女の言葉を聞いて、あのメイドは主人に対する忠誠心を持ち合わせていないタイプだったことを思い出し、やっぱり眠らせるべきだと言う結論に至った。

 麗華のことを守ることにはやる気を出していたようだし、明日までに綿雨先生の体に大きな傷をつけることになりかねないだろうから。


「そんなことはさておき、人生ゲームやりましょう」

「そうよ、そのために来たんだから」

「瑛斗くんも友介も断らないよね?」


 グイグイと体を前に乗り出しながら、ボードゲームの箱を顔に押し付けてくる3人。

 僕はバケツくんの目を見て頷き合うと、「わかった、やろう」と参加することに決めた。


「じゃあ、男二人で準備しててもらえる?」

「私たちは少しお手洗いを借りますね」

「戻ってくるまでによろしく〜♪」


 彼女たちは箱を僕たちに渡すと、ぞろぞろとユニットバスの部屋へと入っていく。

 あの場所に3人同時でトイレをしに行ったとは考えづらい。きっと、世にいうトイレ作戦会議でもしているのだろう。


「3人で協力して勝とうとしてるのかな」

「……いや、人生ゲームの作戦じゃないぞ?」

「え、それなら何の作戦会議なの?」

「そりゃ、ゲームを盛り上げる方法を考えるためのに決まってるだろ」

「へぇ、みんな人生ゲームが余程好きなんだね」


 僕がどんな風に盛り上げてくれるのかとワクワクしていると、バケツくんに呆れたようにため息をつかれてしまった。

 何か間違ったことでも言っちゃったのかな。好きじゃないと作戦会議なんてしないと思うんだけどなぁ。

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