第338話
飛行機の座席は3人席で、自由行動の班で固まって座るということになったから、僕の両サイドは
「窓際がいいだなんて、
「
「っ……確かに乗り物酔いは危険でした」
「私はそうならないように、外の景色が見える場所を選んだのよ。これなら酔わないわ」
そう言って得意げに胸を張る紅葉に、麗華は「なるほど」と頷きながら僕の手を握ってくる。
「まあ、私はどちらに座ろうと瑛斗さんの横顔を見つめているので関係ありませんが」
「そんなに見られたら気まずいんだけど」
「ふふ、瑛斗さんに酔っちゃいます♪」
「酔い止めあるけど飲む?」
「そういう意味じゃありませんから」
そんなやり取りをしていると、そろそろ出発の時間が近付いてきた。
点呼をしていた教師たちもそれぞれの席に戻り、もちろん
「シートベルトはしっかり付けてくださいね〜♪」
そう言いながら両サイドのいない広々とした空間でゆったりと座る先生。まさか三席も経費で買ったのだろうか。
そんなことを思いながらみんなが曖昧な顔をしていると、離れた場所に座っていた
「ここ、よろしいでしょうか」
「へ? あ、いや、ここは私の席なので……」
「よろしいでしょうか?」
「は、はぃ……」
結局、押し負けて隅っこに追いやられていたけどね。教師の権力を使って楽をしようとしていたのだから、こうなってしまっても仕方がない。
瑠海さんからすれば、出来るだけ近くで麗華を見守りたかっただけかもしれないけれど。
『まもなく当機は沖縄へ向けて離陸致します』
そんなアナウンスが聞こえ、僕たちの視線は自然と窓の外へと向かう。やはり離陸する瞬間はこの目で確認したくなるのだ。
「紅葉、大丈夫?」
「な、何がよ」
「いや、手が震えてるから」
「っ……む、武者震いよ!」
「それは無理があると思うなぁ」
どうやら彼女は飛行機に慣れていないらしい。やはり、ふわりと浮く感覚は鉄の壁に囲われた空間でも抵抗があるのかもしれないね。
「手繋ごうか?」
「ぜ、全然平気よ!」
「東條さんもこう言ってますし、私と繋いで下さい」
「わかった、はい」
「ふふふ、瑛斗さんの手は相変わらず温かいです♪」
ニコニコと微笑む麗華には目もくれず、紅葉は飛行機が滑走路を走り出した瞬間に青ざめ始める。
速度が上がる度にまるで生気を吸われるように元気を無くしていき、ふわりと浮かんだ瞬間に目を瞑って固まってしまった。
「怖くない怖くない……」
「紅葉」
「平気よ平気、なんてことない……」
「紅葉ってば」
離陸からしばらくして、僕はブツブツと何かを呟き続ける紅葉の肩を掴んで揺らす。
既にシートベルトを外してもOKのランプは点灯しており、ふわりという感覚も感じなくなっているのだ。
「っ……は、話しかけないでちょうだい!」
「そんな震えないで、外見てみなよ」
「む、無理よ……」ガクブル
「いいから見なさい」
少々強引に顔を上げさせ、顔をグイッと窓の方へと向ける。初めは必死に抵抗して目を閉じていた彼女だが、やがて観念したように外を見た。
「……綺麗」
「でしょ?」
そこは既に雲の上。青と白だけの世界が広がった、とても美しい世界のど真ん中だ。
もちろん落ちることを考えれば怖くもなるが、幸いにも紅葉は無条件で高所恐怖症という訳では無いらしい。
飛行機というゆりかごの中にいれば、外の景色はテレビに映るものを見るのと同じ感覚なのだろう。
「すごいわ、雲があんなに下にあるわよ!」
「はしゃぎ過ぎだよ」
「だってだって!」
「もう、また子供って言われちゃうよ?」
そう言いながら麗華の方を振り返った瞬間、僕は思わず言葉を失ってしまった。
だって、こちら側は先程の紅葉よりも顔色を悪くしていたから。それはもう、今にも倒れそうな程に。
「麗華、大丈夫?」
「す、すみません。東條さん、窓際を代わって貰えませんか……」
「もし嫌と言ったら?」
「うっ、そういうことに付き合う余裕が……」
「か、変わるからここで吐かないでもらえる?!」
何とか惨事は免れたものの、その後も麗華はしばらくぐったりとして一言も発さなかった。
これは修学旅行にしては、あまりいい始まり方じゃなさそうだね。
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