第334話
「一緒に映画見に行かない?」
「普通過ぎます」
「じゃあ、ケバブ食べに行く?」
「随分と極端ですね」
「Shall we dance?」
「No」
結局、試して見た誘い方は全て断られてしまった。いくら好きだと伝えてくれているからと言って、どんな誘い方でもいいわけではないらしい。
「もっと女心を掴むようなのがいいんです」
「パフェとか?」
「心より先に胃袋掴んでどうするんですか」
「やっぱり映画が安牌だと思うんだけど」
「私は映画よりも
「あまり見つめられると照れちゃうよ」
「照れたことないじゃないですか」
「照れてるよ、顔に出ないだけで」
そう言っても信じて貰えなかったようで、
「2人っきりで肩を寄せ合って、お話ができるような場所に誘ってくださいよ」
「僕の部屋とか?」
「それだと
「誰が邪魔者よ!」
「あら、声は聞こえるのに小さくて見えないですね」
「下を見なさいよ!」
「まあ。ごめんなさい、見下すという考え方がありませんでした♪」
「見下してしかいないくせに……」
不満そうに顔を背ける紅葉をベッドに座らせ、よしよしと頭を撫でながら麗華との話を続ける。
「分かった。旧体育倉庫なら2人っきりになれるよ」
「それは少し2人っきり過ぎます。というか、私たちの学校に旧体育倉庫は有りませんよ」
「あ、そっか」
まだ建設されてから10年も経ってないんだもんね。旧になるほど使われたものがほとんどないのだから、全てが現在進行形で使われているはずだ。
「あれ? じゃあ、どうして旧校舎はあるの?」
確か、
そう考えると、旧体育倉庫がない理由の説明に矛盾が生じるような気がするんだけど。
「別棟は元々学園長が通っていた学校の旧校舎を真似て作られたそうです。なので、作られたばかりでも旧校舎と呼んでいるんですね」
「へぇ、半年以上通ってもまだ初耳が残ってたとは」
「ちなみに、完成したのは旧校舎の方が後なんですよ。面白いですよね」
「確かに」
僕がなるほどと頷きながら、紅葉の頬をぷにぷにとしていると、「やめなさいよ」と手を叩かれてしまった。
そのすぐ後に耳たぶをぷにぷにしたら、グーパンチが飛んできたよ。減るもんじゃないんだから、少しくらい触らせてくれてもいいのにね。
「あ、2人きりになれるところ分かったかも」
「言ってみてください」
「カラオケとか」
「それだと一線を越えられません!」
「一線を超える前提なのはどうして?」
「いつでも心の準備は出来ていますからね♪」
「いや、遠分その予定は無いけど」
そもそもの話、家でない場所で一線を超えられる場所と言えば、チャラ男が『休憩するだけだからさ』と女の子を連れ込むあそこしか思い浮かばない。
もちろん僕にはそんな場所に行った経験もないし、麗華だってそれは同じはず。もしかして、二人で行こうと誘われているのだろうか。
「麗華、そういうのはまだ早いと思うな」
「ふふふ、冗談ですよ。あ、越えたいのは本心ですけどね?」
「一応ありがとうは伝えておくよ。でも、高校生も入れる健全な場所で話そうね」
「では、瑛斗さんがそれを提案してください」
「そう言われても思い付かな―――――――――」
そこまで言われて、僕はハッと気が付いた。以前、麗華の家に泊まりに行った時に見つけたのだ。
まるで本物そっくりに作られていて、紅葉となら2人で入ってもちょうど良かったんだけど。
「漫画喫茶の個室とかは?」
「いいですね。この辺りだと、ネットカフェの方が多いみたいですが」
「2人用の個室もあるんだよね? そこなら喋っても大丈夫だと思うし」
「私もあのような場所に一度行ってみたかったんです。今度行きませんか?」
「もちろん。……って、結局僕が誘われちゃったよ」
僕の言葉に楽しそうに笑いながら「約束ですよ?」と小指を絡めてくる麗華。
そんな様子を見つめていた紅葉が、「わ、私も行きたい……」と言い出せるのは、もう少し時間が経ってからのことである。
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