第333話
「昨日は大変だったね」
「お姉ちゃんが悪いのよ」
「でも、謝ったのは
「私の方が大人ってことかしら」
ドヤ顔で胸を張って見せる紅葉に、僕は『お姉ちゃんに見捨てられたら生きていけない……』と落ち込んでいた彼女の様子を思い返す。
どう考えても大人ではないよね。お姉さんだって紅葉が謝りに来てくれるって分かってたみたいだし。『予想より早かった』とか言ってたし。
「んで、よくもまあ騙した翌日に現れたわね」
「別にいいではありませんか。
「私は許してないわ」
「また泣かされたいようですね?」
「望むところよ」
優雅にりんごジュースを飲む
部屋に来てからまだ15分も経っていないと言うのに、もう喧嘩し始める2人を僕はベッドに寝転がりながら眺めた。
あまり暴れるとスカートがめくれそうだからやめて欲しいなぁ。見たら見たで罪悪感があるし、紅葉にはビンタされるだろうし。
「きょ、今日のところはこれで勘弁してあげるわ」
結局、喧嘩の終わりは紅葉のこの一言で訪れた。と言っても彼女が勝ったわけでは無い。
紅葉は麗華に肩車されてグルグルと回転されると、昨日のように目を潤ませてしまったのだ。
いくら口では強気でいても、これは明らかに敗北である。さすがに可哀想だけどね。
「紅葉は泣き虫だね」
「そ、そんなことないわよ!」
「暗くても泣く、高くても泣く、怖くても泣く」
「まるで子供ですね♪」
「あ、あなたたちねぇ……」
「でも、そういうところが可愛いと思うよ」
「っ……えへへ」
褒めるとすぐに大人しくなるところも、僕が紅葉の好きなところだ。素直に笑ってもらえると、こっちまで楽しい気分になれるから。
「って、だから泣いてないわよ!」
「泣いてる紅葉も可愛いよ」
「逆に泣かせたろか?」
「怒ってる紅葉もかわ――――――――――」
「うっさい!」
部屋の中にペチンという音が響く。数分後、僕はビンタされた左頬を擦りながら、紅葉の足元に正座させられていた。
「褒めればいいと思ってるなら大間違いよ」
「その通りです。女の子は複雑なんですから」
「どうして麗華までそっち側に?」
「面白そうなので♪」
「あ、そう……」
先程まで争っていた割に、今度は引き出しにしまっていた画用紙帳を持ってきて、一緒に『女の子講座』なるものを始めた。
どうしてそこに画用紙帳が入ってることを知ってたのかな。本当に女の子って不思議だなぁ。
「先生、質問があるんだけど」
「何かしら?」
「どうして『女の子』の上に紅葉&麗華って読み仮名が振ってあるの?」
「それは瑛斗にとって私たち以外の女子が、全員女の子と認識されてはいけないからよ」
「
「あの子こそ、石ころだと認識してもらいたいわ」
「……お兄ちゃん講座、妹をバカにされると怒る」
「え、あ、ちょ?!」
妹を石ころなんて言う悪い子には、ほっぺをムニムニとする刑に処する。それがお兄ちゃん条例で取り決められたお約束なのだ。
いや、そんなの存在しないけどね。だとしても、奈々を貶されるのは好きじゃないから、紅葉には追加でこちょこちょの刑を執行しておいた。
「も、もうゆるじで……」
「二度と馬鹿にしたらダメだよ」
「……はぃ」
くすぐられ疲れでぐったりとしている紅葉はさておき、麗華先生による女の子講座は続く。
僕は画用紙帳の前に正座し直すと、彼女が書き込む文字をじっと見つめた。
「女の子……というより、私たちと言った方が楽ですね。私たちは瑛斗さんが好きです」
「照れるね」
「好きなので、お休みの日に遊びに誘われると喜びます。2人きりだとさらに喜びます」
「でも、2人とも誘いたいよ。イヴたちとも遊びたいし、どうすればいいの?」
「そういう時は、みんなで遊びに行っても2人で行動出来る時間をそれぞれに設けましょう」
「なるほどなるほど」
いやぁ、麗華先生の講座はためになるね。大学でこういう講義をしてくれれば絶対取るのにね。
多分、受講するのは恋愛テクニックを学びたい男か、麗華目当ての男だらけだろうけど。
「では、次に実践練習をしてみましょう♪」
「実践って?」
「私をデートに誘ってみてください」
「すごく難しそうだね」
麗華に「瑛斗さんなら出来ます!」と励まされ、僕は自分の思い描く誘い方を試してみることにするのだった。
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