第330話
僕が着替えを終えて玄関で待っていると、そこへ半泣きの
隣にいるのはメイドさんではなく
「紅葉、何があったの?」
「ぐすっ……怖かったぁ……」
数メートルの距離を駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きついてくる彼女。その頭を撫でて慰めてあげつつ、僕は麗華に事情を聞いてみた。
「その、
ここで聞いたことを要約すると、紅葉は玄関まで運ぶと
本人曰く、困らせるつもりは全くなくて、ただ玄関の場所をど忘れして探し回っていただけとのこと。
メイドなのに屋敷の構造を理解していないのは、なかなかの問題じゃないのかな。
「まあ、怪我がないみたいでよかった」
「
「分かるの?」
「肩にピンク色の粉がついてます」
「……あ、ほんとだ」
先程の煙のせいだろう。麗華はそれを丁寧に払ってくれると、「一体何の粉ですかね」と匂いを嗅ごうとするので止めて置いた。
「とにかく、あの二人にはキツく言っておきます。お父さんの言うことは聞きませんが、私の言うことは聞いてくれるので」
「こんなこと聞くのもあれだけれど、どうして
「確かに主人はお父さんですけど、メイドの雇用主はお母さんなんです。そのお母さんが『何か不満があれば主人に反抗して良い』としているので……」
「すごいお母さんだね」
「はい。でも、お父さんはそんなお母さんを溺愛していますから。旅行に行く直前なんて、足にしがみついて泣いていましたね」
あの巨漢がそんな子供のようなことをしているところを想像すると、笑いを超えて少し寒気がしちゃうね。
まあ、あの人には仕事の才能がある分、他の部分がいくらか欠けているのだろう。
さすがに僕も鬼じゃないから、一度は麗華と結ばれることに反対されたことは言わないでおいた。もし娘に嫌われたら、泣くだけじゃ済まなそうだし。
「何はともあれ、私たちの結婚は公認となりましたから。いつでも出来ますね♪」
「付き合うならともかく結婚だからね。高校を卒業してからもそう思ってくれてたら、僕も真剣に考えるよ」
「簡単に冷める恋ではありません。この気持ちはずっと変わりません、いつまでも待ちます」
「ありがとう」
最後に軽く微笑み合ってから、僕はまだ震えている紅葉を背負ってお屋敷を後にした。
帰りに迷路園の前で
飼い主の意志を感じ取っての行動なのか、それともまだ紅葉のことを覚えていて危険人物だと認識しているのかは分からないけれど。
「……ねえ、瑛斗」
「どうしたの?」
門を潜って道路に出たところで、背中の紅葉が耳元で声を発した。
ゆっくりと歩きながら言葉を返すと、彼女は僕の服を掴んで少し言葉を詰まらせる。
「あの、えっと……」
「落ち着いてからでいいよ」
「ありがとう。でも、もう大丈夫」
紅葉はそれから一息おいて、深呼吸をしてから先程の麗華との会話の内容について聞いた。
「
「まあ、渋々って感じだったけど」
「……私の母親、修学旅行が終わった頃に一度帰ってくるの」
「そう言えば、遠くで働いてるんだっけ?」
「ええ。でも、一晩過ぎたらまた戻っちゃうの」
「忙しい人なんだね」
「昔はずっと一緒にいてくれたんだけどね……」
彼女は意味深なため息とともにそう零すと、こほんと咳払いをしてからもう一度こちらを見つめてくる。そして。
「滅多にないチャンスだから、今のうちに瑛斗を紹介しておきたいの」
「友達1号として?」
「いいえ。大好きな人としてよ」
なるほど、麗華に張り合って自分も親に認めてもらおうとしてるんだろうね。
ただ、せっかくお母さんに会える時間を邪魔することになるから、すごく申し訳ない気もする。
本人がいいと言うなら断りはしないけれど、一応お姉さんにも了承を取っておこうという話になり、僕は紅葉と一緒に
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