第325話
「全部、僕をここに招く作戦だったんだね?」
僕の言葉に
「やっぱり
「今回は簡単だったよ」
「演技までしたんですけどね……」
彼女はそう言いながら
「
「私はそんなに薄情じゃないわよ!」
「でも、ご褒美がなかったら断ってたよね?」
「そ、それは……そうよ、悪い?!」
「開き直っちゃったよ」
麗華はぷいっと顔を背ける紅葉の頬をむにむにとやりながら、「巻き込んでしまってごめんなさい」と謝った。
その様子を見ていた麗華父は状況を理解したらしく、「後で書斎に来なさい」と背中を向けてドアの方へと歩き出す。
だが、何かを思い出したように立ち止まると、僕の方を見ながら「
「お父さん、怒ってるのかな?」
「そうかもしれません。嘘に関しては厳しいので」
「名前の件があったから?」
「……はい」
麗華がどうしようという顔をして落ち込んでいると、一人のメイドさんが何やら慌てた様子で部屋に駆け込んでくる。
彼女は確か、着替えをもらってすぐに紅葉をこの部屋から連れ出した人だ。すごく落ち着いたイメージがあったんだけどね。
「お嬢様、すみません! そちらのメイドを主人に見られないようにと言われていたのですが……」
「もういいんですよ。そもそも、想定にない仕事をさせた私が悪いんです」
「お嬢様……」
「メイド長の職務との両立は大変でしたでしょう。今日はもう部屋で休んでください」
「ですが、まだ仕事がありますので……」
「
「わかりました、心遣いに感謝致します」
メイド長さんは丁寧にお辞儀をすると、そのまま部屋を出ていく。僕と紅葉は互いに顔を見合わせると、一連のやり取りの中で気になった箇所について質問してみた。
「
「ええ、言いましたよ?」
「
「この屋敷に仕えているメイドの3分の1は、代々メイド一族として白銀家に仕えている家系に生まれた者や嫁入りした者なんです」
「要するに、同じ苗字が多すぎるんだね」
「なので、メイド一族は全員番号。その他の方は名前で呼ぶようにと、彼女たちからの提案ですので」
「……本人たちがいいなら文句はないわよ」
確かに納得はしたけれど、僕も紅葉と同じことを考えていると思う。まるで囚人みたいだなって。
ちなみに、メイド長さんは
「では、東條さんは着替えてきてもらえますか? 私と瑛斗さんはお父さんのところへ行くので」
「わかったわ。叱られないといいわね」
「それは避けられないと思いますが」
「それもそうね」
紅葉は麗華の肩をポンと叩いてから、メイド服の裾を掴んで部屋を後にした。
その背中を見送ってから麗華はこちらを振り返り、「では行きましょう」と僕の手を引いて廊下に出る。
「書斎はこの廊下の突き当たりです」
「お父さん、怒ると怖い?」
「怒られたことがないので分かりません。入れ替わりの件もむしろ謝られてしまいましたし」
「大丈夫、僕も一緒に頭下げるよ」
「……ありがとうございます」
やはり不安なのだろう。彼女の指先が震えていることに気がついた僕は、その手を握って軽く摩ってあげた。
不安が拭えたのかは分からないけれど、にっこりと微笑む麗華に微笑み返し、2人で書斎へ続く廊下を歩き出す。そして。
「じゃあ、入ろっか」
「……そうですね」
突き当たりの扉をノックしてから、「失礼します」と声をかけてドアノブを捻った。
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