第314話
「
そう声をかけてきたのは、僕が転入して来た当初に机にバケツを置くという嫌がらせをしたあの男子だった。
文化祭では助けてもらったし、今では和解したようなものなんだけど、どうして彼が声をかけてくれるのだろうか。
「バケツくん、僕でいいの?」
「俺たちもう友達だろ?」
「そういう記憶はないんだけど」
「そんな冷たいこと言うなよな!」
やたら馴れ馴れしいのは彼が元々チャラいからだろう。そこは少し気になるけれど、誘ってくれるのなら乗らない理由もない。
余り物になって加わるか、誘われた身として加わるかの違いだろうからね。
「わかった、バケツくんの組むよ」
「そう言うと思ったぜ! あと、
「小宮くんだね。覚えとくよ、バケツくん」
「……ったく」
正直、人の名前を覚えるのは苦手だから、しばらくはバケツくんで我慢してもらうとしよう。
僕にとってはその印象の方が強いからね。もはや悪口ではなく、愛称みたいなものだし。
「で、他の2人は?」
「俺って、彼女最優先な男なわけよ」
「なるほど」
「クラスに友達って居ないんだよな」
「なんだ、同類じゃん」
「だから仲良くしようぜ」
「そういうことなら歓迎だよ」
そんな感じで意気投合しつつ、周囲を見回した時には他の全員が4人組を作って席に着いていた。
どうやら僕たちは取り残されてしまったらしい。仕方ないよね、このクラスって男子が4の倍数より2人多いんだもん。
「そこのおふたり。2人部屋にするか、一人ずつ別の部屋に混ぜてもらうかどっちがいいですか?」
「「2人部屋で」」
「……ふふ、仲がいいんですね〜」
「俺とこいつは切っても切れない縁があんだよ」
「そういうことなら、2人部屋で登録しておきます」
「瑛斗、俺たちだけ広い部屋だぞ。やったな!」
「そうだね」
そういうわけで、部屋決めも特にトラブルもなく無事に終わったのだった。
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一方、
その一人というのが、バケツカップルの片割れであるバケツさんこと
「S級の2人と同室とかチョー緊張するんですけど!」
彼女はいわゆる白ギャルと呼ばれる部類の人間で、比較的真っ直ぐに生きてきた2人からすれば、アニメの中の女子高生を引っ張り出してきたような性格をしていた。
以前に少し話したことのある紅葉からすれば、ものすごい変わり様である。あの時はスイーツ係を代わってもらうための演技だったのだろうか。
「ねね、
「な、何聞いてるのよ!」
「いいじゃんいいじゃん、教えてよ〜♪」
「
「奇遇ね、私もそう思ってたところよ」
悪気は無いのだろうが、グイグイ来られると一歩引いてしまう。その一歩すらも詰めてくるような性格は、2人とはあまり合わないのである。
「でもでも、狭間くんが私の彼氏と2人っきりの部屋で良かったよね〜」
「どういう意味ですか?」
「だって、他に人がいたら告げ口されるかもしれないじゃん?」
「告げ口って何をよ」
「そんなの分かりきってるくせにぃ♪」
佐伯はそう言いながら2人を順番に見ると、手招きをして自分の方に寄せさせてから、耳元でその内容をこっそりと囁いた。
「男子部屋、忍び込むっしょ?」
「「は、はぁ?!」」
「しーっ! バレたら出来なくなるよ」
「でも、忍び込むなんて……」
「私たちには無理よ!」
「2人とも初心だねぇ♪」
聞いたところによると、佐伯は去年の行事旅行でも小宮の部屋に忍び込んだらしい。
そんな彼女が「私に任せなさい!」と言うものだから、紅葉と麗華は困ったような顔をしながらも少し頼もしく思えてしまっていたのだった。
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