第312話

 ハロウィンパーティーから数日が経った日の昼休み、僕は紅葉と麗華と3人で昼食を食べていた。

 今日は教室だ。いや、ダジャレじゃないよ。


「そう言えば、そろそろ修学旅行ね」

「言われてみれば、そんな時期になりましたね」


 春愁学園高校では、1年生の初めに親睦旅行、終わりに年末旅行、2年生で修学旅行、3年生で卒業前旅行があるらしい。

 僕も前の学校では入学して1ヶ月くらいで旅行に行ったけれど、あの時から孤立してたからね。いい思い出は特に残っていないよ。


「東條さん、今年はぼっち卒業旅行になりますね」

「う、うっさいわね!」

「去年は一人寂しく過ごしたのでは?」

「っ……」

「あらあら、憶測が当たってしまいました?」


 ニヤニヤとしながら紅葉を言葉で痛めつけていく麗華に、僕はそっと肩に手を置いて攻撃をやめてもらった。


「麗華、僕にも刺さってる」

「……す、すみません」

「別に僕は受け入れてるからいいけど、紅葉のことはいじめないであげて。こう見えて結構傷ついてるんだから」

「瑛斗さんがそう言うのなら」


 彼女はそう言って前傾だった姿勢を元に戻すと、紅葉に「まあ、一緒に回りましょうね」と微笑んで見せる。


「べ、別に白銀 麗華と回りたくなんてないわよ!」

「これはお友達としての言葉ですよ?」

「私とあなたは友達じゃないでしょうが」

「せっかくの修学旅行くらい、ライバルなんてお休みしましょうよ。ねぇ?」


 そう同意を求めてくる麗華に僕が頷くと、紅葉は仕方ないという風にため息をついて「一緒に回ればいいんでしょ」と逸らしていた視線を向け直した。


「その代わり、ライバルは休まないわ。修学旅行なんて絶好のチャンスじゃない」

「ふふ、それもそうですね。逃すなんてサンタに木炭を頼むくらい勿体ないです」

「……例えはよく分からないけど、言いたいことは伝わるからいいわ」


 2人の言うチャンスとは即ち、僕を落とすチャンスということだろう。人は普段と違った環境にいる時、周囲の影響を受けやすい。

 修学旅行という特別な期間なら、普段はどうしようもないことも何とかなると考えたのだろう。


「今日の6時間目に行われる班分けと部屋分けは、生徒の自由にするらしいですからね」

「さすがに男女別よね?」

「東條さん、どこまでむっつりなんですか」

「そ、そういう意味じゃないわよ!」


 紅葉はそう言って恥ずかしそうに顔を背けつつ、「一緒になれるのは班だけなのね」と呟いた。


「男女別なのは何か起こらないようにするためらしいですけど……」

「私たちからしたら今更よね」

「そうですよね」


 ひとつ屋根の下どころか、同じ部屋、同じベッドで眠った経験すらあるのだから、今更と言うのも仕方が無いと思う。

 けれど、僕も男なわけで。夜中に一緒に話が出来ないのは残念だけれど、何も起こらないとは言い切れないからね。

 分けておいてもらって損は無いだろう。とは言え、同性の友達なんて居ない(カナを除く)僕からすれば、男子部屋は地獄になるかもだけど。


「ところで、班って何人か聞いた?」

「4人だそうです。お店に入った時、それ以上だと座れませんからね」

「なるほど」


 ということは、あと一人誘う必要がある。麗華の元取り巻き、現友達になったらしい3人から1人誘うのは難しいだろう。

 粘れば3人だけでいいってことにならないかな。大して話したことない人と回るのも気まずくなりそうだし。


「最悪、奈々ちゃんをスーツケースに詰めて4人目ってことに出来ませんかね」

「そんなことしたら僕が怒るよ?」

「じょ、冗談じゃないですか。ねぇ?」

「私を巻き込むんじゃないわよ」


 麗華を真顔の圧力で大人しくさせた後、イスに座り直した僕は心の中で深いため息をついた。

 奈々のことだ、むしろ自らスーツケースに入って追いかけてきかねない。

 ちゃんと事前に鍵をかけて対策をしておこう。そう心に誓ったのだった。

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