第310話

 飾り付け用のカボチャランプが入った箱を持ってきた僕は、その中に飴をたんまりと入れて準備完了。

 この中に手を入れてもらって、机の上に出した飴玉の個数が多かった人の勝ちというルールだ。


「じゃあ、初めは誰からする?」

「人柱には最年少が適任かと」

「なっ?! 白銀しろかね先輩、それは酷いですよ!」

「そうだよ! むしろ最年長がなるべき!」


 その最年少である奈々ななとカナの反対を受け、「それもそうですね」と頷いた麗華れいかは顎に手を当てて悩み始める。


「仕方ありません、ここは公平にジャンケンにしましょう」


 彼女がそう同意を求めると、今度はノエルが「私、ジャンケン弱いんだよね」と後ろ頭をかいた。


「ジャンケンに強い弱いなんてあるんですか?」

「大勢のジャンケンで勝ったことないし」

「単に運が悪いだけでは?」

「ジャンケンって運ゲーじゃない?」

「確かにそうですけど……」


 麗華は紅葉くれはと目を見合わせると、互いに苦笑いをした。以前に『春愁しゅんしゅう式ジャンケン』というカード制ジャンケンで戦っている彼女らには、運ゲーだとは言い切りづらいのだろう。


「なら、ジャンケンで勝った人が一番ってルールにすればいいじゃない」

東條とうじょうさん、たまにはいい事言いますね」

「いつも言ってるわよ!」

「ほう、自らを歩く名言量産機だと」

「そ、そこまでは言ってないけど……」


 にんまりと笑いながら詰め寄った麗華は紅葉に「いいから始めなさいよ!」と押し返されると、短くため息をついてから全員の顔を確認した。


「では、東條さんがうるさいので始めますね」

「何よその言――――――――」

「ジャンケンポン!」

「おわっ?!」


 突然拳を振られ、慌ててグーを出す紅葉。人は咄嗟にジャンケンをさせられると、力んでしまってグーが出やすいという話を聞いたことがある。

 それを見計らったのか、麗華が出していたのはチョキ。しかし、他のみんながバラバラのものを出したため、あいこという結果になった。


「ちっ、命拾いしましたね」

「あなた、卑怯にも程があるわよね?!」

「既に勝負は始まっているんです。甘ったれたことを言っていると、その小さなおててを捻っちゃいますよ?」

「誰が赤子よ!」

「ばぶばぶ♪」

「くっ……絶対に許さないから……」


 紅葉が拳をさらに握り締めると、麗華はその姿を鼻で笑う。そして「負けたらビンタ5回よ」という提案に「10回でも構いませんが?」と応戦した。

 その様子を横から見ていた僕は、いいことを思いついたとばかりに他のみんなに呼びかける。


「紅葉が勝つか、麗華が勝つか。賭けに買ったら飴玉2倍、負けたら没収。参加する人は?」


 そう、みんなから飴玉を巻き上げる作戦だ。2人の喧嘩も見なれたと言わんばかりに落ち着いているみんなは、次々に参加表明をしてくれる。


「紅葉先輩に飴玉3個!」

「白銀先輩に5個!」

「麗華ちゃんにオールインだよ!」

「……」ジー

「くーちゃんに20個かな〜♪」


 僕はみんなのベット数をメモしつつ、1人分多いことに気がついて顔を上げると、いつの間にかお姉さんが目の前に立っていた。


「あ、お邪魔してます」

「楽しそうなことしてるね?」

「ハロウィンなので。お姉さんは友達に誘われたりはしなかったんですか?」

「今年はくーちゃんと過ごそうかなって」

「彼氏に振られたんですか?」

「……遠慮ってものを覚えて欲しいかな」


 その言葉を聞いて申し訳なくなった僕は、「飴、いります?」と甘いやつを差し出すが、彼女は「買ってきたから」と袋に入ったパイン飴を取り出してみせる。


「ええい、ケチなことは言わん! 2袋分をくーちゃんに賭ける!」

「負けたら没収ですよ?」

「一緒に食べる相手もいなくなったから関係ない!」

「じゃあ、今年は僕たちと一緒に食べましょうね」

瑛斗えいと君……私はいい弟を持ったよ」

「勝手に決めつけないでください」


 ふざけてはいるものの本当に感動したらしく、お姉さんは涙を流しながら先程差し出した飴を口に放り込んだ。

 幸せそうな顔をしている辺り、失恋の傷が治るまでそう時間はかからなそうだね。

 僕がそう思いながら安心した数分後、彼女が友達から呼び出されて「私もパーティー行ってくるね〜!」と家を飛び出して行ったことはまた別のお話。


「たくましいね」

「まったくよ」


 あの人のせいで見ていなかったけれど、賭けは紅葉が勝ったらしい。

 麗華にオールインしたノエルが、床にうつ伏せで倒れている様子から察せてしまった。

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