第309話

 カナには『僕の仮装してるゾンビも仲間外れだよ』と伝えることで、悲しみを癒してもらった。

 そもそもの話、死神とゾンビだけ世界線違うからね。赤ずきんちゃんにこんなのが出てきたら、グリム兄弟もびっくりだよ。


「……ところで瑛斗えいと

紅葉くれは、どうしたの」

「私には分からないことがあるのよ」


 彼女はそう言いながらテーブルの上に並んだお菓子やら飲み物を見回すと、眉を八の字にしながら言った。


「パーティーってどうやって楽しむの?」

「僕に聞かれても困る」

「……そうよね」


 茶柱さばしら会長からパーティーのために用意するものは教わっている。だから、場所も食べ物も仮装も完璧だ。

 ただ、いざ始まってみると何をすればいいのかが分からない。これは由々しき事態である。


麗華れいかなら分かるんじゃない?」

「いえ、私もホームパーティについてはあまり……」

「ノエルとイヴはどう?」

「私も高校生になってからは全くかな」

「……」コクコク


 どうやらこの場にいる者は、偶然にも全員がホームパーティの知識を持ち合わせていないらしい。

 もう一度言おう、これは由々しき事態だ。


「先輩、私には聞かないの?」

「カナはパーティーなんて行ったことないでしょ」

「な、何故それを……」

「だって女装が――――――――――」


 そこまで言いかけて、僕は慌てて言葉を止める。そうだ、麗華とイヴはカナが男だと知らないはずなのだ。

 他のみんなは知っているけれど、なるべく広めない方がいいだろうと判断し、「女装した男がパーティーに乱入する事件をこわがってたもんね」と誤魔化しておいた。


「お兄ちゃん、私には?」

奈々ななはどうせ知らないでしょ」

「むっ……知ってるもん!」

「じゃあ教えてくれる?」


 僕がそう頼んでみると、奈々はクッキーを一枚手に取ったかと思うと、狼麗華に差し出して「13円になります」と店員の真似事をし始める。そして。


「クッキーをウル売るフ、ってね」

「「「「「「「…………」」」」」」」

「本当は知らないんですごめんなさい」


 日本列島が北上し始めたのかと思うくらいに場の空気を冷やしてから、しゅんとしてイスに座り直してしまった。

 僕は可愛そうになって無理に笑ってあげたけれど、途中から紅葉に止められてしまう。「余計に傷つけてるわ」だってさ。


「奈々ちゃん、私を巻き込まないでください」

「ご、ごめんなさい……」

「……まあ、さすがに怒れませんけど」


 奈々は見栄を張ったことを十分反省したようで、気の毒そうに見つめた麗華は「精進してください」とだけ言ってそれ以上は責めなかった。

 彼女もみんなを笑わせたかっただけだろうし、むしろ頑張ってくれたことを褒めるべきなのかもしれないね。


「あ、ハロウィンパーティーの進め方ってサイトがあるよ」

「調べてくれたんだ?」

「このままってわけにもいかないからね」


 僕がノエルが差し出した携帯の画面を確認してみると、今からでも何とかなりそうなアイデアがいくつかあった。

 何か作るのは今からでは材料も時間も足りないが、ゲームをするのなら何とかなりそうだ。


「飴はたくさん買ってるし、『掴み取り』なんてのはどう?」

「掴み取り?」

「沢山掴めた人が勝ちってルールにしてさ」


 そんな提案をしてみると、みんなの視線がじっと僕の手に集まってくる。

 初めは何か付いてるのかなと思って確認していたが、どうやらそういう意味ではないらしい。


「お兄ちゃん、私たちより手大きいよね」

東條とうじょうさんなんてこんな小さいんですよ?」

「どうして私を例に出すのよ!」

「この中で一番手が小さいからです」

「っ……確かに……」


 麗華の言葉を聞いて紅葉の手と自分の手とを合わせてみると、確かに2倍とは言わないがかなり差がある。

 それに指が細いから、始まる前から勝敗は見えているようなものだった。


「じゃあ、僕は審判役になるよ」

「それがいいですね」

「その代わり、掴めたお菓子の1割は僕が貰うね」

「別に構いませんけど……瑛斗さんが買ったお菓子ですよね?」

「人から貰った方が美味しく感じるからさ」

「ふふ、同感です♪」


 そんなこんなでゲームを始めることになったのだけれど、みんなが以外にも勝ちにこだわっているということを僕はまだ知らなかった。

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